想いの再確認

あたしと国光は不二宅の前でタクシーから降りた。
タクシーに乗り込んだ時から、あたしは終始無言のままだ。
国光と目も合わせずに、淡々と家の玄関の鍵を開けた。
ドアを開けると、お姉ちゃんが廊下をぱたぱたと走ってきた。

「おかえり、愛。

いらっしゃい、手塚君。」

「お邪魔します。」

『ただいま。』

あたしの淡白な声を不思議に思ったお姉ちゃんは、あたしの顔色を窺った。
あたしはまだ拗ねているんだ。
怒っているのかと訊いても、答えてくれない国光に対して。

「おかえり、早かったね。」

「お、帰ってきたのか?」

にこにこしている方のお兄ちゃんがリビングに通じるドアから顔を出し、続いて裕太お兄ちゃんも出てきた。

『ただいま、お兄ちゃんたち。

今、国光と喧嘩してるの。

部屋で話し合うから誰も入ってこないでね。』

あたしは国光の手首を無理矢理掴み、きょとんとするお姉ちゃんの横を通り過ぎた。
国光が眉を寄せたのが分かったけど、相変わらず無言だった。
あたしはお兄ちゃんたちの視線をスルーし、廊下と接している自分の部屋に入った。
其処に国光を引っ張り込み、背中でドアを閉めた。

『……。』
「……。」

二人して間近で見つめ合った、というより睨み合った。
廊下でお兄ちゃんたちが困惑しながら話しているのが聴こえる。

「二人共如何したのかしら?」

「愛の奴、すげー怖い顔してたな…。」

「待ってあげようよ。

姉さんも裕太も、リビングに戻ろう。」

あたしの部屋の前をお姉ちゃんが通る足音が聴こえた。
その間もあたしたちの睨み合いは止まらない。
背の高い国光を睨み付けていると、リビングのドアが閉まる音が聴こえた。
その瞬間、あたしたちは手に持っていた荷物を床に落とした。
それを合図に、弾けるように唇を重ね合った。

『ん…っ!』

後頭部と背中に腕を回され、荒々しく引き寄せられた。
国光の頬に手を添え、負けじと縋り付いた。
息継ぎをした時、同時に舌を絡め合った。
足元が覚束ないあたしはキスをしながら、国光の襟首を片手で引っ張って誘導した。
足にベッドが当たった時、国光を巻き添えに背中から倒れ込もうとした。
でも、抱き寄せられている腕で力強く引き留められた。

『…何よ。』

「よせ。」

『やだ。』

国光を引っ張ろうとしたけど、軽々と横抱きにされた。
文句を言おうとしたら、唇で口を塞がれた。

「勢いよく倒れ込むと、目眩と勘違いするだろう。」

ベッドに優しく降ろされ、組み敷かれた。
あたしに有無を言わせず、国光はキスを続けた。
相性の良さを感じるキスを何度も繰り返し、あたしは息継ぎの合間にぽつりと言った。

『見られちゃったね。』

あたしは国光と手を繋ぎながらタクシーに乗り込む場面を他人に見られた。
あの時のキスは一瞬だったとはいえ、目撃した人もいるだろう。
キスで唖然とする国光を強引に引っ張り、タクシーに乗り込んだ。

「俺は見られても構わない。」

国光以外と噂になりたくない。
頬を撫でてくれる大きな手か心地良くて、あたしは目を閉じた。
短いキスが一度だけ降ってきた。

「テニス協会もお前を守ろうとする筈だ。

お前はまだ若い。」

あたしはクスッと笑うと、国光の頬を両手で包んだ。
眼鏡の奥の優しい瞳があたしだけを見つめている。

『若いのに、こんな事してるね。』

「それは…仕方がない。」

『何それ。』

甘いキスの続きが始まった。
国光にぎゅっと抱き着き、精一杯伝えた。

『国光じゃなきゃ、嫌。』

「俺もお前以外は考えられない。」

二人でおでこを合わせた。
国光と想いが通じ合っているのを再確認すると、不安に駆られていた気持ちが和らぐ。
目を閉じ、飽きもせずに唇を合わせた。
すると、脇から腰にかけて、国光の片手にそっとなぞられた。
思わずビクッと反応してしまった。
更に国光はあたしの耳元にも唇を落とした。
こんな風に触られた事なんて、一度もない。

『っ、国光…。』

胸の鼓動が異常に速くなって、収拾がつかなくなる。
国光の苦しげな声がした。

「…すまない、これ以上は何もしない…。」

あたしの背中に両腕を回した国光は、余裕のない表情をしていた。
如何しよう、如何声をかけたらいいのか分からない。
胸の鼓動が煩いまま、国光の頭をぎゅうっと抱き締めた。

『嫌じゃないよ…?』

「!」

あたしの肩に顔を埋めていた国光は、短く吐息をついた。

「煽るのはやめてくれ。」

『…ごめん。』

二人で強く抱き合った。
あたしたちはまだ若い。
この先を知るのは、もう少し後にしようね。



2018.3.5




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