嫉妬の先に

夕焼け空の下、表彰台で真ん中に立つ愛は可愛らしい笑顔を見せていた。
大会の運営委員の一人が、表彰台に乗った三組を撮影している。
その中央に立つ愛と越前は、肩幅程の高さの優勝トロフィーを其々手に持っている。
カメラに慣れている愛は自然な笑顔だが、越前は不器用に口角を上げている。
フェンス越しにもスマートフォンで撮影され、越前は不快そうだ。

「大騒ぎだね、裕太。」

「こうなるって分かってただろ、兄貴。

マスコミが駆け付けてないだけマシだけどな。」

ブルーシートの上でミステリアスな微笑みを浮かべている不二も、そんな兄に呆れる裕太君も、注目されている妹を見慣れているようだ。
恋人である愛の様子を、俺はフェンス越しに遠巻きから眺めていた。
やはり愛は有名人だ。
最近は特に大きな結果を残しているし、有名スポーツ雑誌のランキングのトップだった。
確か、美人だと思うスポーツ選手のランキングだ。
すると、とある観衆の声が不意に耳に入った。

「ねえねえ、あの男の子って不二愛と付き合ってるのかなー?」

「何言ってるのよ、あの子たちはまだ若いんだから。」

俺の眉間に深々と皺が寄った。
越前が愛の交際相手、だと?
不快な記憶が次々と蘇り、苛立ちを必死に抑えた。
同じブルーシートに腰を下ろしていた愛の姉、由美子さんが鼻高々に言った。

「騒がれるって分かってたから、愛にはハイレベルな変装道具を沢山持たせたのよ。」

「流石は姉さんだね。」

不二はそう言うと、俺の肩に手を置いた。
愛と越前は更衣室のある施設内に移動していた。
観衆のスマートフォンは愛に向いているし、施設まで追いかけている人間すらいる。
俺が不二の顔を見ると、クスッと笑われた。

「物凄い仏頂面だね。」

「……。」

「そろそろ迎えに行ってあげてくれるかな。」

「分かった。」

俺は立ち上がり、眼鏡のフレームを上げ直した。
愛は施設の非常口から出てくる予定だ。
観衆は徐々に帰宅する様子を見せているが、一部の人間はまだ残っている。

「手塚君、私たちは先に帰るから、愛をお願いね。

ラズベリーパイ焼いて待ってるから。」

「分かりました、ありがとうございます。」

この後、俺は不二宅に邪魔する事になっている。
大勢で帰宅すると目立つという理由で、俺と愛だけでタクシーを拾って帰る予定だ。
愛が変装を得意としているとはいえ、人に気付かれずに済むだろうか。





page 1/3

[ backtop ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -