時間をかけて

ずっと前から、この人を下の名前で呼んでみたかった。
そのチャンスが到来したかと思ったけど、女子ジュニアテニス界の絶対女王と呼ばれるこの人の腕は甘くなかった。

「アンタ何でミスしない訳?」

『何それ、ミスして欲しいの?』

俺たちは準決勝に進んでいた。
相手のコートのライン上に超回転の打球を叩き込んだこの人と、片手の掌同士で何度目かのタッチを交わした。
お互いにファインプレイが出る度に、自然とこうしていた。

正直、試合が始まる直前は如何なるかと思った。
息が全然合わなかったら?
俺が足手纏いになったら?
そんな心配は無用だった。
俺たちのコンビネーションは良かった。
この人が俺に調子を合わせてくれるし、俺はコート上で動き易かった。

鬱陶しいのは、フェンスの向こうにいるギャラリーだ。
この人がファインプレイを見せる度に拍手が沸き起こる。

『何だかごめんね。

こんなに集まるとは思わなかったよ…。』

「別に、慣れてきたから。」

その中には竜崎と小坂田の姿もあった。
小坂田はチアリーダーの格好をしていて、リョーマ様と黄色い歓声を上げている。
俺は顔が若干引き攣った。

「何かごめん。」

『いいよ、朋ちゃんらしいから。』

この人とペアを組む事で、手塚(元)部長に対して優越感を覚えた。
今、この人と組んでいるのは俺だ。
俺がこの人を独占している。
そう思う度に、自分の気持ちを再確認してしまう。

でも、俺は決めたんだ。
ゆっくりと時間をかけて、この人への気持ちを消す。
一年、いや二年はかかるかもしれない。
俺は執念深い人間だ。

今はこの人とのミクスドを楽しもう。
またとない機会になるだろうから。


2018.2.18




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