大会会場での見送り

市民テニス大会当日の午後。
日曜日という事もあり、見学する市民は多い。
広々とした屋外コートで、小学生と中学生の部が同時開催される。
トーナメント戦は決勝戦を含めると計五戦。
正直、愛なら一捻りだろう。
ダブルスに苦手意識を持つ越前が足手纏いにならなければの話だが。
会場に足を運んでいる俺は、観客がブルーシートを敷いている合間を縫って歩いていた。

「手塚、こっちだよ。」

不二の声がした。
裕太君と一緒にいる不二は、大きなブルーシートに腰を下ろしながら俺に片手を振っている。
テニスコートを囲っているフェンスの目の前に場所を取っていた。
裕太君は俺に挨拶した。

「手塚さん、お疲れ様です。」

「裕太君こそ、場所取りご苦労だった。」

場所取りをしてくれたのは裕太君だと愛から聞いた。
妹が出場する大会を観られるのは久々らしく、張り切っているように見える。
俺がブルーシートに腰を下ろすと、不二が普段通りの笑みを浮かべながら言った。

「いい場所だよね、此処。」

テニスコートは計六面。
中学生の部はその内の三面を使用するが、此処は丁度試合が目の前で見える位置になっている。
愛と越前が試合中に話をすれば、聞こえそうな距離だ。
その時、俺の背後から単調な声が聞こえた。

「手塚部長。」

俺が振り向くと、其処には越前がいた。
テニスウェアに着替え、ラケットバッグを持っている。
不二と裕太君から挨拶される前に、越前は背中を半分向けた。

「ちょっといいっスか。」

「構わない。」

俺は立ち上がった。
出場選手の控え室にいる愛は、後々此処へ来ると言っていた。
入れ違いになるかもしれない。
一言だけでも激励の言葉を直接伝えたい。

「不二、愛が来たら引き留めておいてくれないか。」

「分かったよ。」

不二に感謝しながら、越前とその場を離れた。
市民の喧騒から離れ、会場内の外れにある自販機の前に来た。
適度な距離を保ちながら、俺たちは向き合った。

「俺とあの人がペアになった事、怒らないんスね。」

「何故怒る必要がある?」

「俺があの人を諦めてないとか考えない訳?」

考えない筈がない。
越前は愛に告白したばかりだったというのに、愛をミックスダブルスのペアに誘った。
優勝賞品が欲しいというのも、愛と一緒にいたいが為の言い訳に聞こえる。
しかし、俺は二度と愛の傍を離れるつもりはない。
それに――

「愛はお前を信用している。

お前もそれを裏切りたくはない筈だ。」

「……。」

越前の目が動揺で泳いだ。
如何やら図星のようだ。

「俺はあの人の良い男友達になれたらと思ってるだけっスよ。」

『既に愛はそう思っている。』

越前は愛の幸せを願っている。
それは俺にも伝わっていた。

「お前に時間を割いた愛の為にも、今日は必ず勝て。」

「当然っスよ。

じゃ、俺は行くんで。」

越前は自信に溢れた様子で背を向け、歩き去った。
俺も早々に踵を返し、不二と裕太君の元へ向かった。




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