不思議なコツ

日曜日の市民テニス大会を控えた金曜日。
昨日は大学病院で定期検診があり、越前君との練習はなかった。
今日の放課後、学校のコートで最後の練習をする予定だ。

現在、5限目の体育を目前にバレーボールの練習をしていた。
クラスメイトの友達に誘われ、運動場の片隅で六人の円陣になっている。
アンダーハンドパスでパス回しをひたすら繰り返していた。
ちなみに、皆が既にジャージに着替えている。

「愛!」

『はいよ!』

運動神経の良い朋ちゃんからパスされ、それを桜乃ちゃんに丁寧にパスした。

『桜乃ちゃん!』

「わわわ…!」

桜乃ちゃんは見事な素振りを見せ、ボールがコロコロと転がっていった。
あららと皆が心配そうにしていると、隣の朋ちゃんがあたしに耳打ちした。

「愛、後で聞いて欲しい事があるんだけど…。」

『うん、いいよ?』

朋ちゃんの顔が恋する乙女になっている。
これは越前君関連で間違いなさそうだ。
桜乃ちゃんがボールを取りに行っている間に耳打ちしたのは、何か意図がある筈だ。

5限目の体育が終わった後、着替えを済ませて教室に戻った。
時間が限られている中、朋ちゃんに渡り廊下へと呼び出された。

『如何かした?』

「愛、あたし今まで遠慮してた。」

朋ちゃんはあたしに背を向けたまま話している。
そのかしこまった様子を不思議に思った。

「桜乃が愛に恋愛相談してるって知ってたから、愛には何も相談出来なかった。」

『…。』

「でも!」

朋ちゃんは突然ぐるっと向きを変え、あたしの右手を両手で握った。
その目が羨望に色付いているのが一瞬で分かった。

「もう遠慮しない!」

『へ?』

「愛、リョーマ様に好きになって貰うコツを教えて!」

『…はい?』

何なんだ、そのコツとやらは…。
あたしはぽかんとしたけど、一方の朋ちゃんは本気だ。

「リョーマ様はポニーテールが似合う女の子がタイプらしいの!

あたしもポニーテールデビューした方がいい?!」

越前君はポニーテールが似合う女の子がタイプなの?
何処からそんな情報を…。
流石は越前君ファンクラブの会長だ。
でも、朋ちゃんはトレードマークの二つ括りが可愛いと思う。

「それでそれで、愛は何時もリョーマ様にどんな人だって言われるの?!」

『え、えっと…。』

朋ちゃんは引き下がらないつもりだ。
ずんずん寄ってくるから、一歩ずつ後退した。
あたしは越前君から如何言われているんだっけ?

『話し上手、かな?』

「なるほど…。」

何だか面白可笑しくて、急に笑い出してしまった。
朋ちゃんは呆気に取られている。

「え、な、何?」

『ごめんごめん、何時もの朋ちゃんだなと思って。』

「何よそれー。」

お腹周りをつんつんと突っつかれ、余計に笑った。
朋ちゃんはきっと何時までも越前君を諦めないんだろうな。
近々桜乃ちゃんにも越前君を諦めないとカミングアウトしそうな勢いだ。
あたしは越前君に好きになりそうだと言われてから1ヶ月も経っていないから、気持ちの整理が出来ていない。
でも、朋ちゃんはすっかり切り替えている。
あたしも暫くすれば、国光が言ったように落ち着けるのかな。
チャイムが鳴ると、二人で大急ぎで教室へと走った。

「日曜日の大会、観に行くから!」

『うん、是非!』

二人で笑い合いながら教室に入った。



2018.1.17




page 1/1

[ backtop ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -