誕生日デート 前編

テニススクールと比較すれば、部活は楽だと毎度ながら思う。
簡単な練習メニューや指導を終えると、バスに飛び乗って自宅に直行した。
今日は国光と誕生日デートだ。
有名な超高層ビル内にあるアミューズメント施設に行く。
交際10ヶ月、しっかりしたデートは何度目だろうか。
時間が合わないのは主にあたしのせいだけど。

「愛?」

『あ、国光!』

お姉ちゃんに車で送って貰ったあたしは、駅の時計台前で待ち合わせていた国光に駆け寄った。
国光の私服は相変わらず大人っぽくて、落ち着いた色合いが似合う。

「制服で来るものだと思っていたが、着替えたのか。」

『うん、高速で。』

折角の特別な日なんだから、お洒落して行ってあげて?
そう言ってくれたのは華代だ。
今日の為に引き出しの中身をひっくり返し、コーディネートを考えた。
精一杯のお洒落をした。
髪はテニスの試合中と同じポニーテールにすると人に気付かれる可能性があるから、下ろしている。

「似合っている。」

『ありがと。』

照れ臭くなって視線を逸らすと、きゅっと手を握られた。
優しい目に見下ろされると、胸がときめく。

「時間は多くない。

早速行こうか。」

『うん!』

此処にはずっと行きたかったプラネタリウムがある。
カップル席があって、二人で並んで座れるんだ。
星が好きな華代が去年の冬に観に行っていて、お勧めされた。
受付まで向かってチケットを取ったけど、上映まで30分程時間がある。
ぶらつく事になってエスカレーターに乗っていると、あたしの好きな場所があった。

『あ、ゲーセン。』

「入るか?」

『いいの?』

ゲーセンに入る国光なんて、想像がつかない。
だからこそ入ってみて欲しい気もする。

「お前のゲームの腕前を見せてくれ。」

『そう来たか。』

ゲームなら得意だ。
テニスよりも気が楽だし、場所も取らない。
アーケードゲーム機の近くを通った時、癖っ毛の男の子が頭の薄いおっさんに席を無理矢理取られているのが見えた。
他にも空いている席があるのに、酷い。
まだ男の子はプレイが終了していなかったから、お金が無駄になってしまう。
おっさんは勝手にプレイの続きを始めた。
あれはあたしが得意な格ゲーだ。
それを知っている国光はあたしの手を引いた。

「行くか。」

『よっしゃ。』

気合いが入る。
小さな男の子は連れのお友達の前で泣いていた。
あたしはその子の前にしゃがんだ。
ショルダーバッグからキャンディ型のチョコレートを出し、目をぱちくりさせるその子の手に乗せた。

「お姉ちゃん誰…?」

『誰かな?』

あたしは男の子を国光に任せ、おっさんの向かい側のゲーム機の前に立った。
このアーケードゲーム機は、向かい同士だと対戦が出来る仕組みになっている。
おっさんは男の子にチョコレートを渡したあたしをジロッと見た。
あたしは好戦的に睨み付けた。

『おっさん、勝負しよう。』

「お嬢ちゃん別嬪さんだねぇ。」

『5先で如何?』

つまり、5戦先に取った方が勝ち。
1戦取るのに2分もかけない。
10分以内で終わらせる。
あたしは有無を言わせないまま、手袋を取ってゲーム機に200円だけ入れた。
国光があたしの手袋とショルダーバッグを持ってくれた。
おっさんは負ける気がないのか、お金を再投入しながら毅然と振る舞っている。

「おれが勝ったらどーしてくれる?」

『今年末のジュニアワールドツアーファイナルに招待してあげるよ。』

「んん?」

おっさんは手元を操作しながら立ち上がり、あたしの顔を不思議そうに観察した。
あたしがおっさんを一瞥すると、中年でオタクっぽい顔立ちが見えた。
生理的に受け付けないその顔が、驚きの表情に変わった。

「お嬢ちゃんまさか――不二愛…?!」

『誰それ。』

「美人だと思う女子スポーツ選手ランキング1位になった、あの不二愛?!」

『え、何それ。

ほら始まるよ。』

国光と男の子があたしの背後で見守っている。
若いギャラリーが続々と集まってきた。
中年のおっさんと女子が格ゲーで対戦していたら、注目されるのも仕方がないか。
さて、男の子も見ている事だ。
フルボッコにする以外、あり得ない。




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