忘れていた日

越前君とのミクスドの練習に30分程費やし、そのままテニススクールに行った。
門限の9時に帰宅し、お風呂に直行。
夜のおやつを食べるお姉ちゃんと一緒に晩ごはんを食べた。
それから部屋で古文の宿題をしていたら、ころっと寝落ちた。
そんなあたしを起こしてくれたのは、学習机の上のスマホだった。

『うー…もしもし…?』

《愛。》

『あれ、国光?』

学習机の電灯が眩しい。
そのスイッチを切り、ベッドにぼふっとダイブした。
真っ白なカバーの枕を抱っこし、むにゃむにゃしながら言った。

『子守唄歌って下さい…。』

《今日越前と揉めたらしいな。》

『……?!』

がばっと起きた。
一気に覚醒した。

『だ…誰に聞いたの…?』

《桃城だ。》

そうだ、越前君に突っかかっているのを桃先輩に止められたんだった。
桃先輩が国光に連絡していたとは思わなかった。
何時連絡したのか、心当たりがあった。
あたしが越前君と話していた時、桃先輩は妙に焦りながらスマホを触っていた。
まあ、それはいいとして。
今は越前君と揉めた話をしているんだ。

『だってムカついたんだもん…。』

《何故揉めたんだ?》

其処までは聞いていないようだ。
弁解するつもりはないけど、説明した。
越前君にミクスドのペアがあたしに変わったと説明したら、本望だと言われた。
勇気を出して越前君をミクスドに誘った桜乃ちゃんが可哀想で、越前君の頭にテニスボールをぶつけた。
襟首を引っ掴み、揺さ振ってやった。

―――ごめん、前が見えてなかった。

―――アンタの事しか見えてなかった。

あんな事を言われたら、如何反応していいのか分からなかった。
其処に桃先輩がやってきて、襟首を掴むあたしを制した。
最後は市民大会優勝を約束し、掌をパチンと合わせて不思議な円満解決?

『――という事です。』

単純馬鹿なりに必死で説明した。
思い起こせば、あの時のあたしは無鉄砲だった。

『後、暴力反対って言われた。』

あたしはもう一度寝転がり、枕を抱っこし直した。
国光が沈黙している。

『恋愛って難しいね。』

《…?》

『そう言ったら、そうだねって返された。』

そうだね、なんて。
まるで越前君が恋愛している最中みたいな返事だ。
難しいかなんて知らないよ、だなんてぶっきらぼうな返事が来ると思っていたのに。

《逆に言えば、簡単な恋愛などないだろう。》

『ごめんね、あたしが難しくしてるよね。

国光の事、ハンマー投げみたいに振り回してる。』

《幾らでも振り回せばいいと言っただろう。》

国光をハンマーの代わりにしてぶんぶん振り回すのを想像した。
あたしは一人でクスクス笑った。

《何を考えているんだ?》

『振り回しても投げはしないからね。』

《お前は全く…。》

枕を国光だと思い込みながら、ぎゅうっと抱っこした。
国光の声を聞いていると、安心する。

『国光はまだ寝ないの?』

《意図的に言っているのか?》

『ん?何を?』

《やはりな。》

国光が変だ。
いや、あたしが変なのかな。

《そろそろだ。》

『何が?』

何か待っているのかな。
国光が数秒沈黙したかと思うと、穏やかに言った。

《誕生日、おめでとう。》

『……へ?』

あたしは目を瞬かせ、ベッドから再び起き上がった。
掛け時計は日付が変わったばかりの時刻を示している。

『あ…本当だ。』

裕太お兄ちゃんの誕生日は先週の18日。
にこにこお兄ちゃんの誕生日は29日だけど、今年は閏年じゃない。
あたしの誕生日は二人のお兄ちゃんの間に挟まれている26日で、にこにこお兄ちゃんの3日前だ。

『もしかして、最初に言いたかったから起きてた…?』

《ああ。》

リア充だけど、爆発してたまりますか!
頬の緩みが止まらないし、嬉しくて仕方がない。

『ありがとう…凄く幸せ。』

《良かった。》

『今日は出掛けようね。』

《ああ。》

今日くらいは沢山甘えたいな。
ぎゅってして欲しいし、なでなでして欲しい。
国光が困っちゃうくらい甘えたいな。
あたしは一人でにやにやした。




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