大事な友達

国光と一緒にバスで向かった先は、桜乃ちゃんが降りたバス停だ。
桜乃ちゃんに話したいとメッセージを送ると、何時でも構わないと返信が来た。
二人でバスを降りた時には、既に其処には桜乃ちゃんが待っていた。

「愛ちゃん…。」

バスが出発するのと同時に、桜乃ちゃんに思い切り抱き着かれた。
余りに突然だったから、あたしは目を見開いた。

「愛ちゃん…っ、私…。」

『桜乃ちゃん…。』

桜乃ちゃんが泣いている。
あたしまで貰い泣きしそうになった。

「愛、俺は向こうにいる。」

『うん、ごめん。』

愛読書を持っている国光は、静かにその場を離れた。
心細くて不安なあたしの為に、国光は此処までついてきてくれた。
あたしは相変わらず国光の優しさに甘えてしまっている。

『桜乃ちゃん…ごめんね。』

あたしは啜り泣く桜乃ちゃんに精一杯言った。

『越前君とバレンタインに何があったか、話せなくて…。』

それなのに、桜乃ちゃんを応援するだなんて大口を叩いてしまった。
あたしは酷い女だ。

「愛ちゃんは私に言わないでいてくれたんだね。」

『違うよ、隠してたんだよ…。』

「ううん、違うよ…言えなかっただけだよ。」

あたしは失恋の哀しみに震えている桜乃ちゃんの背中を摩った。
桜乃ちゃんはあたしに抱き着いたまま言った。

「リョーマ君も言ってたけど、愛ちゃんは何も悪くないんだよ。」

『でも…あたしなかなか言い出せなくて…。』

「言えなくて当然だよ。

愛ちゃんもバレンタインデーには色々あったし、テニスだって忙しいんだし…。」

あたしは首を横に振った。
そんなの理由にならない。
あたしは逃げていただけなんだ。
桜乃ちゃんがあたしから離れ、手の甲で涙を拭った。

「私…越前君に好きって言えないまま振られちゃった…。

愛ちゃんにも沢山相談に乗って貰って、応援して貰ったのに…。」

越前君も酷い。
桜乃ちゃんの気持ちを暗に知っている癖に。

―――俺は恋愛してる場合じゃないからって言っといた。

―――アンタも竜崎の事応援したりしないでいいから。

確かにあたしに振られた越前君からすれば、越前君の事が好きな桜乃ちゃんをあたしが応援するのも変な話だ。

「愛ちゃん、お願いがあるんだ。」

『うん、何?』

「まだリョーマ君には話してないけど、私の代わりにミックスダブルスのペアを組んであげて欲しいの。」

『え…?』

勇気を出して越前君のペアになったのに、それを辞退してしまうの?
桜乃ちゃんは無理矢理笑顔を作っている。

「リョーマ君は愛ちゃんと友達として仲良くしたいって話してたよ。

今日もその一歩なんだって。

愛ちゃんは優しくて良い人だって褒めてたよ。」

好きな人が他の女の子を褒めていた事を口にするなんて。
桜乃ちゃんは今とても辛い筈だ。

『本当にそれでいいの…?』

「うん…いいんだ。」

桜乃ちゃんは滲んだ涙を拭った。
その涙を見ていると心苦しくて、あたしまで涙が滲んだ。

「今日の練習は本当に、本当に楽しかった。

ほんの少しでもリョーマ君とペアを組めて嬉しかった。」

『桜乃ちゃん、本当にそれでいいの?

好きって伝えなくていいの?』

「これ以上振られちゃったら…辛くて立ち直れないから。」

桜乃ちゃんがそう言うなら、あたしは告白を強要しない。
あたしには応援する資格なんてないんだ。
如何してもっと早く気付かなかったんだろう。

「次の恋を見つけたら、その時はまた応援してくれる?」

『勿論だよ、大事な友達なんだから。』

「ありがとう、愛ちゃん大好きだよ。」

桜乃ちゃんがもう一度抱き着いてきた。
こんな風に言ってくれるなんて、思わなかった。

「朋ちゃんとは一緒に話そうね。」

『うん。』

桜乃ちゃんとは話が出来たけど、朋ちゃんが残っている。
月曜日に学校で話し合うんだろうな。
まだ山場が残っていて、気は休まらなかった。



2017.9.29




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