三人の話し合い

週明けの月曜日。
部活の朝練はテニススクールの鬼コーチと比較すれば余裕だ。
何が辛いかと言うと、早起きだ。
普段通りに朝練をこなし、4限まで授業を受けた。
お昼休み、桜乃ちゃんと一緒に朋ちゃんを校舎裏に呼び出した。

―――――
図書室にいる。
何かあったら来るといい。
―――――

国光からのメッセージがあたしの心を支えてくれる。
何も知らない朋ちゃんはにこにこしている。
何かのサプライズとでも思っているのかもしれない。
あたしは木陰でマフラーを巻き直し、桜乃ちゃんと一緒に朋ちゃんと向き合った。

『朋ちゃん、急に呼び出してごめんね。』

「別にいいけど、愛も桜乃も何かあったの?

暗い顔してる。」

桜乃ちゃんが俯いてしまった。
あたしから切り出そう。

『越前君の事なんだけど。』

「リョーマ様?」

相変わらずリョーマ様と呼んでいるんだね。
それを踏まえると、越前君のファンのように思える。
でも、真意はそうじゃない。

『朋ちゃんは越前君が好きだよね?』

「な、何よ急に!」

朋ちゃんから恋愛相談を受けた事は一度もない。
それでも、皆が確信している。
朋ちゃんの顔は真っ赤だ。

『好きだよね?』

あたしの真剣な問いかけに、朋ちゃんがゆっくりと頷いた。

「…聞かなくても分かってたんじゃないの?」

『うん、分かってたよ。』

隣の桜乃ちゃんを見ると、まだ俯いている。
身近な友達が同じ人を好きだなんて、辛いに決まっている。
想像したくもない。

『バレンタインの日、越前君と二人で話したの。』

あの日に越前君があたしを連れ出そうと手を引いたのは此処、校舎裏だ。
思い出すと複雑な気持ちになる。

「リョーマ様は何を言ってたの?」

『越前君は…あたしに――』

「愛が好きって?」

え…?
あたしは目を見開いた。
俯いたままだった桜乃ちゃんもハッと顔を上げた。

「分かるよ…だってあたしはリョーマ様の事ずっと見てるんだから。」

好きな人を目で追ってしまう気持ちは分かる。
あたしも移動教室や全校集会の時は国光の姿を無意識に探したり、水族館デートでも国光ばかり見ていた。
あたしは朋ちゃんに弁解した。

『好きとは言われてないの。

好きになりそうだから振って欲しいって言われたの。』

「好きになりそうだなんて嘘よ。」

正直、これ以上は聞きたくなかった。
聞くのが怖かった。
朋ちゃんの口調はまるで八つ当たりのようだった。

「リョーマ様は愛が好きよ。

愛も分かってるんじゃないの?」

心の何処かで気付いていた。
越前君が好き≠ナはなく好きになりそう≠セと言ったのは、あたしを気負わせないようにする為だ。

―――アンタの事は友達として好きだから。

その好き≠ェ恋愛の好き≠ノ聞こえたのは気のせいじゃなかったんだ。
自惚れだなんて理由をつけて、越前君の本心に向き合おうとしなかった。
傷付くのが怖かったから。

「愛ちゃんに酷く言わないで。」

その声は、ずっと黙っていた桜乃ちゃんのものだった。
桜乃ちゃんが唇を噛み、聞いた事のないような強い口調で言った。

「朋ちゃん、私もリョーマ君が好きなの。」

朋ちゃんは驚かなかった。
やっぱり桜乃ちゃんの気持ちに気付いていたんだ。

「愛ちゃんは言えなかったんだよ。

私たち二人がリョーマ君を好きだから、自分が告白されたって言えなかったんだよ。

罪悪感で一杯だったんだよ。」

あたしが伝えたかった事を桜乃ちゃんが代弁した。
桜乃ちゃんの目に涙が溜まっている。

「私も朋ちゃんにリョーマ君が好きだって言えなかった。

朋ちゃんがリョーマ君を好きだって気付いてたから。」

友達同士でお互いの好きな人が同じだと気付いていながら、学校生活を過ごしていた。
すると、朋ちゃんが堰を切ったように泣き出した。

「…二人共…ごめんね…っ。」

『謝る必要なんてないよ。

あたしの方こそ…言えなくてごめんね。』

朋ちゃんは首を横に振った。
両手で顔を覆いながら、幼い子供みたいに泣いていた。

「リョーマ様が愛の事が好きだって気付いた時から、愛が羨ましくて仕方なかった…!

愛は美人で頭も良くてテニスも上手いし、手塚先輩みたいな彼氏もいるし…嫉妬してた…!」

あたしまで泣きそうになった。
朋ちゃんがそんな苦しい思いを抱えていたなんて、考えた事もなかった。
少しだけ落ち着いてきた朋ちゃんは、桜乃ちゃんにも言った。

「桜乃もごめん…。

桜乃の気持ちに気付いてたのに、あたしはリョーマ様が好きだってアピールしてた…。

桜乃にリョーマ様を諦めて欲しかったから…意地悪してた。」

「もういいんだよ、朋ちゃん。」

誰が悪いとか、何のせいだとか。
そんな事は関係なくて、胸の内に抱え込んでいたものを話せた事実が大切なんだ。
そう思えるのに、あたしの心は如何しても晴れ切らなかった。



2017.10.8




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