自己中心的な頼み-2

「…何でそんなに大人数な訳?」

テニス部が使用している水飲み場で待っていた越前君は、お付きの二人がいるのを見た途端に不満を零した。
あたしの両隣には国光と桜乃ちゃんがいる。

『ごめん、二人だけで向こうで話す?』

「いや、別にいい。」

国光と越前君は無言でお互いの顔を見た、というより睨み合っているようにも見える。
桜乃ちゃんは申し訳なさそうにおろおろしたけど、此処は女子テニス部の部室への道のりだから、必然的に通る事になっていた。

「リョーマ君、ごめんね…?」

「別に。」

既にレギュラージャージに着替え済みの越前君は、桜乃ちゃんの謝罪を軽く流した。
あたしがむすっとすると、越前君はあたしの前に立った。
国光が警戒しているのが横から伝わった。
越前君はレギュラージャージのポケットから四つ折りの紙を取り出し、あたしに差し出してきた。
桜乃ちゃんは部活に行くタイミングを失ってしまったけど、越前君の頼み事が気になるのか、去ろうとはしない。
越前君は真剣一色の表情で言った。

「アンタにしか頼めない。」

『?』

あたしは越前君の真剣な顔を見た後、国光の顔を見上げた。
如何やら越前君の頼み事は国光が聞いても構わないような内容らしい。
あたしはもう一度だけ越前君の顔を窺ってから、その紙を受け取った。
広げてみると、何かのチラシだろうか。
カラーで印刷された紙に並ぶ文字を読んだ。

『市民テニス大会のお知らせ…男女混合ダブルス…?』

男女混合ダブルスは、俗に言うミクスド≠セ。
開催日は来週の週末になっている。
学年末テストの前日だ。
国光と桜乃ちゃんがあたしの両隣からその内容を覗いた。
あたしたちが住む市内の小中学生を対象としたテニス大会で、小学生と中学生の部があるようだ。
まさかと思い、越前君の目を見た。

「その中学生の部にアンタと出たい。」

国光が眉を寄せ、桜乃ちゃんは目を見開いた。
確か桃先輩が言っていたけど、越前君は全くもってダブルスが出来ない筈だ。
国光は無表情中の無表情になり、越前君を無言で威圧している。
あたしは口角を怪しく上げた。

『ふーん、君の目的はつまり――』

越前君に紙を向け、とある箇所を指差した。

『これね?』

それはズバリ、優勝賞品。
最近発売されたばかりの最新テレビゲーム機だ。
店舗で買えば3万以上する代物が、この大会の優勝賞品である。
国光が変に沈黙し、桜乃ちゃんはぽかんとした。
あたしは越前君をビシッと指差し、矢継ぎ早に言い放った。

『あたしや桃先輩が遊んでる格ゲーのソフトに対応してるこのテレビゲーム機が欲しいのね!』

「どうせアンタ既に持ってるんでしょ。

俺にくれたっていいじゃん。」

『生意気!

しかも大会当日は学年末テスト前日なのに!』

「アンタ頭良いでしょ。」

国光が溜息を吐き、ぷんすかするあたしの手から紙を取った。
それを一通り読み、越前君に言った。

「越前、お前にミックスダブルスが出来るのか?」

「その人なら俺に合わせてくれそう。」

『は?!』

この生意気少年には他人を尊重するという考え方がないのだろうか。
通常のダブルスと同じく、ミクスドにもチームワークが必要だ。
越前君に空手チョップでも食らわせそうなあたしだけど、国光の手があたしの肩に置かれた。
落ち着くように諭され、あたしは深呼吸した。
苛立ちを抑えながら言った。

『別にパートナーはあたしじゃなくてもいいでしょ?』

「アンタと組めば絶対優勝出来る。」

『パートナーの女の子放ったらかして、越前君一人で相手の打球全部拾えばいいんじゃない?』

「面倒じゃん。」

嗚呼、言い返す気力がなくなってきた。
早く国光と一緒に帰りたい。
我儘を言うと、国光に抱っこして欲しい。
その時、桜乃ちゃんがもじもじしながら言った。

「あの…リョーマ君。」

桜乃ちゃんは耳まで真っ赤だ。
越前君は目を見開き、まさかという表情だ。
あたしも驚いた。
桜乃ちゃんが勇気を出そうとしている。

「リョーマ君…その…私でいいなら一緒に…。」

越前君は桜乃ちゃんから視線を逸らし、考え込んだ。
すると、何かを決意したかのようにあたしの目を見た。

「条件があるんだけど。」



2017.8.27




page 2/2

[ backtop ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -