恋人とのバレンタインデー-2

『…国光!』

愛の斜め前を歩きながら、道路沿いの歩道を無言で進んだ。
人の少ない住宅街に入り、愛の自宅までの道を辿る。

『国光ってば!』

「何だ。」

『痛いよ…!』

「っ、すまない。」

無意識に力が入り過ぎていたようだ。
すぐに手の力を緩めたが、離しはしない。
すると、愛が俺の腕に縋り付き、視界を覆うように顔を押し当てた。

『その紙袋、見るだけで吐きそう…。』

愛にそう言わせてしまうくらいなら、バッグに無理にでも入れた方が良かった。
持ち運びに困る大量のチョコレートを入れる為に、紙袋は仕方なかった。
先程の不二も紙袋を持っていたし、大石もそうだった。

『国光はあたしのものなのに。』

その台詞で、俺は紙袋を手放した。
腕に縋り付く愛の背に片腕を回し、愛の息が詰まる程に力強く抱き締めた。

『待っ、此処外…!』

「俺は――」

苦しいのか、愛が身動ぎした。
しかし、俺はその身体を離さずに耳元で囁くように言った。

「お前しか見ていない。」

愛がピクッと反応した。
何度も伝えた台詞だが、愛が不安ならその身に深く染み込むまで伝えるだけだ。
愛は自分に自信がなさ過ぎる。

『っ、分かった。』

「本当に分かったのか。」

『うん…分かったから、紙袋転けちゃう…!』

愛は俺の腕を軽く揺すった。
俺は渋々その身体を離し、転倒しそうになっていた紙袋を持ち直した。
解放された愛は息を深く吐くと、不満を零した。

『もう…今日は女の子から気持ちを伝える日なのに、国光も越前君も――』

妙な名前が聞こえた。
墓穴を掘ったという表情で、愛が硬直した。

「越前…?」

『あ…。』

「何かあったのか。」

愛は返事をせずに俯いた。
その顎を指でそっと持ち上げると、その顔は真っ赤だった。
俺は眉を寄せた。

『えっと…ちゃんと話そうと思ってたんだよ?』

「あんなメッセージを送っただろう。」

―――用事があるなら、あたしは先に帰るけど

『放課後に女の子から呼び出されたりするのかなと思って…。』

「誰かに呼び止められる前に来た。

今日はもうお前以外の用事などない。」

愛は俺の目を真っ直ぐに見ながら頷き、俺の手を握った。
その手を握り返すと、愛の表情が緩んだ。

『とりあえず此処じゃ話し辛いし、公園まで行こう。』

「そうだな。」

やっと歩き始めた。
手を繋ぎながら、何時もの公園に来た。
しかし、ボール遊びをする子供の声が騒々しかった。
此処では話せそうにない。
愛は眉尻を下げ、困り顔だ。

「如何する?」

『うーん…うちに来る?』

「いいのか?」

『お兄ちゃんが後から帰ってくるけど、大丈夫。』

「分かった、なら邪魔させて貰う。」

愛は頷き、二人で再び歩き始めた。
家まで送ろうとは思っていたが、上がる事になるとは思っていなかった。





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