クリスマスイブ

―――年末まで逢うのは控えよう?

そう決めてから時が過ぎ、あたしは日本へと帰国した。
W杯では去年のようなトラブルもなく、あれ以降誰かにちょっかいをかけられる事もなかった。
一方、アメリカの友人キャシーには激怒された。
男を振り回す小悪魔だなんて言われ、早く仲直りしなさいと助言を受けた。

『クリスマスイブだね。』

「手塚から連絡は?」

『…まだ。』

オーストラリアとは季節が真逆の日本では、暖房が彼方此方の家庭で働いている。
不二宅もその内の一軒だった。
クリスマスイブのお昼過ぎ。
リビングのダイニングテーブルで、てんこ盛りの課題をお兄ちゃんと一緒に進めている。
国光のノートは相変わらず大活躍だ。
今、国光は何処で何をしているんだろう。

『お兄ちゃんは恋人作らないの?』

「僕は人を好きになる感覚がまだ分からないんだ。」

毎年、バレンタインデーにびっくりする程のチョコレートを貰うお兄ちゃんは、告白された回数も数知れず。
それでも、誰一人として女の子を好きにならない。

「でも愛と手塚を見ていると、恋も素敵だと思うよ。」

『こんなにぎくしゃく揉めまくってても?』

「二人なら乗り越えられるよ。」

揉めているというより、あたしが勝手に拗ねているだけだ。
国光の優しさに甘え過ぎている。

『お兄ちゃんはきっとサボテンに恋してるんだね。』

「そうだね。」

否定しないお兄ちゃんとクスクス笑うと、あたしはスマホを確認した。
国光からの連絡はない。
今日はまだ帰国しないのかな。
流石に年末年始は帰国出来ると思ったんだけどな。
あたしは髪を耳にかけ、課題に集中し直した。


それから2時間後。
ふと顔を上げると、お兄ちゃんがテーブルに伏せて静かに寝ていた。
あたしはソファーの上にあったブランケットを取り、お兄ちゃんの肩にそーっとかけた。

『何時もありがとう…お兄ちゃん。』

勉強にも付き合ってくれるし、話も聞いてくれる。
優しくて自慢のお兄ちゃんだ。
あたしは椅子に座り直し、もう一度スマホを確認した。
国光からの連絡はない。

今日は逢えないのかな…。

自分から突き放した癖に、逢いたいだなんて。
あたしの勝手な都合で国光を受け入れられなかった。
それでも、国光は幾らでも待つと言ってくれた。
今もあたしの事が好きだと信じてもいいのかな。

『…よし、気を取り直そう。』

お兄ちゃんを起こさないように呟き、苦手な数学の課題と向き合った。
これが一通り終わったら、ゲームをしよう。





page 1/2

[ backtop ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -