手塚国光の侵入

あれから一週間。
日本女子は順調に試合を進めている。
一方の男子は試合が戦場みたいになっていて、怪我人も続出だ。
あたしは怪我もトラブルもなく、淡々と試合をこなしていた。
今日の試合も終わり、部屋のお風呂に入ってドライヤーを終えた時。
ドアをノックする音が聞こえた。

『ん?』

誰だろう、仲良しの先輩かな。
もう夜の9時なのに。
ドアの覗き穴を右目で覗くと、あり得ない人物が見えた。
思わず二度見した。

『は…?!』

慌ててドアの鍵を開け、その人物を引っ張り込んだ。

『早く入って…!』

「邪魔するぞ。」

手ぶらで私服姿の恋人は後ろ手でドアを閉めた。
如何してそんなに冷静なんだ、この人は。

『何してるの国光!

此処は日本女子代表のホテルだよ?!』

「すまん。」

『すまんじゃないでしょ!』

まるで女子寮に侵入した男子みたいだ。
日本女子代表の関係者の一人に見えなくもないけど、国光の顔は知れ渡っている。
誰かに見つかったらびっくりされてしまう。

「お前も日本男子代表のホテルのロビーに入ったらしいな。」

『ロビーくらいなら問題ないでしょ。

お兄ちゃんに聞いたのね、部屋番号も!』

あたしは焦りを落ち着かせるかのように冷蔵庫を開け、中からペットボトルのジュースを取り出した。

『オレンジジュースでいい?』

「ああ、すまない。」

部屋に置いてあった透明なプラスチックのコップにオレンジジュースを丁寧に注ぎ、テーブルに置いた。

『座ってね。』

「ああ。」

柔らかな布製の椅子に腰を下ろした国光は、冷蔵庫にペットボトルを片付けるあたしをじっと見ている。
あたしはその視線に冷や汗を掻きながら、国光から丸テーブルを挟んで前の椅子に腰を下ろした。

『びっくりした…まだびっくりしてる。』

「お前に逢いに来た。」

『ど、如何して?』

「逢いたい事に理由が必要か?」

あたしは顔が熱くなり、それを冷ます為にオレンジジュースを一気飲みした。
国光があたしの寿命を縮めにかかっている。

「毎試合出場しているようだが、体調は如何だ?」

『この通り、元気。』

車椅子で生活していたのが懐かしい。
国光は満足そうに微笑み、オレンジジュースを一口飲んだ。
二人で話す時間が突如出来たから、あたしは頬が緩んだ。

『国光も頑張ってるね。』

「お前もな。」





page 1/2

[ backtop ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -