仲直りの要望

ドイツ代表のメンバーが夕方にランニングをしていると聞いた道は、両脇に木々が真っ直ぐに連なっていて、歩行者用に広く舗装されていた。
その木の上に、アメリカ代表のユニフォームを着た俺がいる。
テニスボールを片手で器用にクルクル回しながら、とある人物が通るのを待っていた。
10分程待った頃、その人物は現れた。
ドイツ代表のユニフォームを着てランニングしている人物に、木の上から悠々と話しかけた。

「手塚部長、見っけ。」

「!」

手塚部長が立ち止まり、俺に振り返った。
俺は木の太い幹の上で片膝を立て、手塚部長を見下ろした。

「越前、其処で何をしている?」

「部長を待ってたんスよ。」

手塚部長は相変わらずの無表情だ。
俺が木から降りずにいると、腕を組んだ手塚部長が眉を潜めて言った。

「木から降りろ。」

「…ういっス。」

天下の青学テニス部部長手塚国光を見下げながらの会話は、流石に無理だった。
大人しく従い、木から降りた。
グラウンドを走らせられるのは嫌だと反射的に思ったけど、此処はオーストラリアだった。
俺は片手をポケットに突っ込み、もう片方の手でテニスボールを持った。

「あの人が手塚部長と仲直りした気がするって言ってたけど。」

あの人、不二愛の話をすると、手塚部長は目を鋭く細めた。
俺があの人の肩を引き寄せたのを根に持っているんだろう。

「…昨日は随分とふざけた真似をしてくれたな。」

やっぱり根に持っていた。
相当怒っていると見た。
その威圧感は流石だ。

「仲直りしないからっスよ。」

「何故愛に執着する?」

「別に執着なんかしてない。

あの人話し上手だし、面白いし。」

俺が液体窒素だとか化け物のオンパレードとか。
聞いているだけで飽きない。
それはきっと手塚部長も同じ筈だ。
天真爛漫な性格はあの人の魅力の一つでもある。
俺は言葉を続けた。

「此処からが本題。」

手塚部長の威圧感に負けじと、挑戦的な笑みを返した。

「早く仲直りしないと、あの人取られるかもよ。」

嘗てない程に鋭く睨まれた。
生温い人間なら腰が抜けてしまうような目付きだ。
けど、俺は怯まない。
あの人の恋人である厳格な人物を睨み返した。
手塚部長はあの人と距離を置いている現状に余裕がないんだと思う。
俺の目の前であの人にキスした程に。

「お前は愛に好意があるのか。」

「…!」

ストレートな質問に動揺してしまった。
好意がある≠セなんて堅苦しい表現だ。
つまりは、好きか如何かを訊いているんだ。
正直、好きというより意識≠オているのは否めない。
一度気持ちを認めてしまえば、手遅れになる。
だから、心の奥底にある気持ちを絶対に認めてたまるか。
そう意地を張っていたのに、好意があるのかだなんて言われたら気持ちが揺らいでしまう。
俺が何も答えなかった事が、手塚部長にとって答えだった。

「愛は渡さん。」

「俺が取るなんて言ってないけど。

あの人良い人だし、平和に過ごして欲しいだけ。」

手塚部長は無表情のままだ。
何を考えているのかさっぱり読み取れないけど、とにかく俺を疑っているのは間違いない。

「ムカつくけど、あの人は手塚部長と一緒にいる方がいいと思う。」

「!」

あの人は手塚部長とお似合いだし、手塚部長といる時は幸せそうな顔をしている。
ムカつくけど、悔しいけど、本当だ。

「それじゃあ、俺行くんで。」

手塚部長に引き留められる事なく、俺はその場を去った。
結局何を伝えたかったかというと、あの人と早く仲直りして欲しいという事だ。
そうじゃないと、俺の中に秘めている何かが爆発しそうなんだ。
だから、早く復縁してよね。



2017.8.3




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