キスの相性

『その間に好きな女の子が出来るよ。』

「俺はずっとお前だけだ。」

オーストラリアの公園で、街灯の明かりを頼りに二人で話している。
そのきっかけを作ってくれた兄の不二に感謝しなければ。
幾らでも待つと言った俺の気持ちを疑っているのか、愛が何かを言おうとした。
それを唇で遮り、昨日以来の口付けを交わした。
愛に抵抗の様子はなく、俺に応えてくれる。
一度唇を離し、愛に尋ねた。

「これでも俺たちは距離を置いているのか。」

『うん、そうです勿論です。』

愛との心の距離がまだ縮まっていないという事か。
背伸びをして口付けを強請った愛の唇を再び塞ぐと、愛は胸元をぎゅっと雑に握ってきた。
其処はユニフォームのGERMANY≠フ文字がある場所だった。
息継ぎで唇が離れた時、愛は不満を零した。

『ドイツ人じゃない癖に。』

「……。」

言葉が見つからない。
愛は手で握っていた部分に軽く頭突きをした。
少しだけ痛かった。

『ドイツに住んでた訳でもない癖に。』

次には拳を握り、俺の胸元を何度も弱々しく叩いた。

『…W杯を馬鹿にしないで。』

「そういうつもりは…。」

しかし、愛はそのように解釈してしまうのだろう。
心苦しくなった俺は愛の両手首を取り、有無を言わさずに唇を奪った。
俺がどのような反論を並べても、愛には言い訳に聞こえるだろう。
俺の取った行動を愛が受け入れられるようになるまで、御託を並べるのはやめよう。

『っ、ん…。』

愛の息継ぎを見計らい、舌を入れ込んだ。
これまでに何度も繰り返した深い口付けに対し、やはり考えるのは相性の良さだ。
愛の両手首を離し、華奢な身体に両腕を回して引き寄せた。
すると、俺の頬に愛の手が添えられた。
積極的に舌を絡ませる口付けが心地良い。

『…ねぇ、急に変な話だけど…。』

「如何した?」

『キスに相性ってあるのかな。』

愛が俺と同じ事を考えていた。
口付けに酔いしれた目をする愛に、俺は微笑んだ。

「俺も同じ事をよく考えていた。」

『でもあたしは国光以外とキスした事ないから比べる相手もいないし、相性を考えるのは変かな…。』

「俺もお前が初めてだ。」

お互いに初めての恋人なのだから、当然口付けも初めての相手だ。
比較する相手がいては困る。
愛の頬に唇を落とすと、愛の顔が一気に真っ赤に染まった。

『っ…ほっぺは初めて…。』

「そうだな。」

愛の前髪を上げ、額にも唇を落とした。
小さく肩を震わせて反応する愛が可愛らしい。

『あのさ、良いと思う…?』

「何がだ?」

『あたしたちのキスの相性。』

愛は照れ臭そうに俺を見上げている。
俺は愛の頬を撫でた。

「確かめてみるか?」

愛は微笑んだ。
お互いに吸い寄せられるように唇を合わせ、口付けに陶酔した。
忘れてはならないのは、俺たちがこれでも距離を置いているという事だ。



2017.7.22




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