受け入れられない

エキシビションマッチの行われた当日の夜。
跡部さんに言われた通り、日本男子の分も観戦した。
国光は跡部さんのダブルスを圧倒し、驚く程に腕を上げていた。
お兄ちゃんのダブルスだけがドイツから一勝し、流石はあたしのお兄ちゃんだと感心した。
日本女子も男子に続いてエキシビションマッチがあった。
あたしもシングルスで出場し、無事に勝利した。
そして今、ホテルの近所にあるコンビニ前で、今日一昨日の事を親友に相談していた。

『もう散々…。』

《でも手塚さんが助けてくれたんだね。》

『…うん。』

しかも昨日と一昨日のどっちも助けて貰った。
まるであたしのピンチに駆けつけるスーパーマンみたいだ。
スーパーマンの格好をする国光を想像しそうになった。

《変な男の人には気を付けてね。》

『ありがとう、なるべく人と行動するようにする。

今もお兄ちゃんと待ち合わせだし、コンビニの前だし。』

ぎゃーと大声を出せば、すぐに人が駆けつけてくれる。
コーチやチームメイトにも『お兄ちゃんと話してくる』と前もって報告してきた。

『あ、そうだ。

あたしが渡したCDの曲、如何?』

《弾けるようになったよ。》

『ほんと?』

華代には絶対音感があるから、楽譜は不要。
一方のあたしは音楽センスがゼロだ。

《愛は私みたいな曲って言ってくれたけど、私は愛みたいな曲だと思ったよ。》

『え?』

《苦しくても必死に生きる愛みたい。》

あたしはコンビニの灯りで伸びた自分の影を見つめた。
華代がそんな風に言ってくれるなんて。
あたしなんかよりもずっと、華代の方が苦しい筈なのに。

《話が戻るけど…手塚さんに愛の気持ちをぶつけてみてもいいと思うの。》

『……。』

《応援してるから。》

華代は返事を強要しない。
何時もの柔らかくて温かみのある声で、あたしを落ち着かせてくれる。
すると、華代が可愛らしい欠伸をした。

『ごめん、眠いよね。

そっちは早朝だもんね。』

《愛が謝らないで?

電話したのは私なんだから。》

『うん、でもありがとう。』

使い古した猫の腕時計を見ると、そろそろお兄ちゃんとの約束の時間だった。
お兄ちゃんが話したいと言っている内容は一体何なんだろう。

《それじゃあ、またね。》

『うん、おやすみ。』

目の前に華代はいないのに、何故か手を振る動作をしてから電話を切った。
ありがとう、華代。
華代は思った事を真っ向から伝えてくれる。
可愛くて優しくて、時には厳しい。
大切な大切な親友。
その時、人影が見えた。

『あ、お兄、ちゃん…?』

あれ…?
お兄ちゃんにしては大きな影。
背が高くて、あたしを何時も包み込んでくれる肩幅が広いその人は…

『国光…?』

「愛?」

如何して此処にいるの?
夏服姿の国光はあたしの前に来ると、周囲を見渡した。
あたしたちは同時に言った。

「不二は如何した?」
『お兄ちゃんは如何したの?』

その瞬間、全てを悟った。

「……。」
『……。』

嗚呼、やられた。
お兄ちゃんはあたしたち二人に話し合いをさせようとしたんだ。
あたしはお兄ちゃんの企てに溜息を吐き、国光をチラリと窺った。
国光も呆れたように肩の力を抜いた後、あたしの目を見た。

「話そうか。」

返事の代わりに頷いた。
国光に手を取られ、一緒に歩き始めた。
手を繋ぐのも久し振りな気がする。
国光の斜め後ろを歩いていたら、手をグッと引かれた。
お互いの肩が触れ合い、あたしはドキッとした。

『あ…。』

「近くにいてくれ。」

あたしはそっと頷き、国光に寄り添った。
胸が切なくなった。




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