チームメイトの挑発

愛は知らない。
俺がお前の過去を既に知っている事を。

「あの不二愛と付き合ってるって噂は本当だったな。

やけに大事にしてるじゃねぇか。」

「……。」

エキシビションマッチを終えた俺は、外でランニングをしていた。
其処にジークフリートが現れ、俺を挑発しに来た。
かなり話せるようになったドイツ語も聞き取れる。
俺はランニングコースで立ち止まり、ジークフリートの戯言を黙って聞いていた。

「直接見ると、余計に美人だな。

気丈で頭の良い女だ。」

俺はジークフリートを睨んだ。
この場に他のドイツ代表がいないのをいい事に、好き勝手に言っている。

「……食っちまいたくなる。」

「…!!」

全身の血が怒りで沸騰するかと思った。
気付けばジークフリートの襟首を左手で掴んでいた。
愛に手を出そうというのなら、断じて許さない。

「……ふざけるな。」

「冷静沈着なお前が取り乱すとは、珍しいじゃねぇか。」

ジークフリートは余裕の表情で俺の手を振り払った。
昨日愛に触れたその腕を捻じ曲げてやりたい衝動に駆られる。
日本人である俺はジークフリートによく思われていない。
実戦経験が足りない俺は、プロへのステップとしてこのW杯への参加を求められた。
1日でも早くプロになり、愛の元へ帰る為に。
愛の為を思って出た行動が仇となった。
去年のW杯であのような事件に遭った愛は、このような形でW杯に出場する俺を許せないだろう。

「あの女は相当男の気を引くぜ?

精々気を付けるんだな。」

挑発に満足したジークフリートは悠々と歩き出し、去っていった。
俺は拳を痛い程に握っていたが、ゆっくりと解いた。
気を取り直し、ランニングを再開した。

もう一度、愛と話したい。
俺の思いを伝えたい。

愛がジークフリートや越前に抱き寄せられているのを見た時。
嫉妬と怒りが俺の胸を支配した。
ジークフリートに言われずとも、愛が男の気を引く事など、身をもって理解している。

ランニングを終え、クールダウンにウォーキングへと切り替えた時。
ユニフォームのポケットに入れてあったスマートフォンが振動した。
愛の名前を期待してしまうが、別の名前だった。
だが、苗字は同じだった。

―――――
今夜、時間が出来たら逢おう。
愛の事で話がある。
―――――

愛の兄、不二周助だった。
一体何の話なのか、不安が過った。
分かったという趣旨のメッセージを返信した。
不意に空を見上げ、同じ国内にいる愛へと思いを馳せた。

―――目移りするのか?

―――……あり得ないよ。

愛の台詞を信じたい。



2017.7.19




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