思い出の上書き-2

黙ったまま歩き続け、体育館裏まで愛を連れてきた。
人気のない此処は背の高い木々だけが俺たちを見ている。
俺が立ち止まると、手を繋いだままの愛が小声で言った。

『ラブレター渡された場所…。』

愛の言うラブレター事件。
同学年の女子に呼び出され、俺宛の手紙を押し付けられた場所が此処だ。

「俺が上書きする。」

俺は愛の華奢な両肩に手を置き、軽く引き寄せた。
戸惑う愛は俺に手を伸ばし、目に心配の色を浮かべながら俺の髪に触れた。
それが俺を煽るだけとも知らずに。

『上書きって…?』

「此処は俺とお前が――」

口付けを交わした場所になる。
愛の髪型を崩さないように、その後頭部に手を遣り、その艶やかな唇を奪った。
肩が一度だけ小さく跳ねた愛を驚かせてしまっているとは理解している。
それでも、お前に触れたい俺を受け入れて欲しい。

『ん、っ…。』

口付けの合間に漏れる愛の声を聞いた時に初めて、荒々しく口付けている事に気付いた。
それを謝罪するかのように愛の頬を撫でた。
愛は俺に必死で応えながら、背に腕を回してきた。
一度唇を離し、吐息が混じり合う距離で囁いた。

「すまない…愛…。」

『…如何して謝るの?

国光が満足するまで、続けて。』

お前はこんな俺でも受け入れてくれるんだな。
愛から口付けられ、俺の身体が欲で粟立った。
初めての感情に戸惑いながらも、愛の言葉に甘えて口付けを続けた。

『ん…っは…。』

息継ぎに合わせ、愛の唇が開かれた。
その下唇に親指を添えると、薄く目を開けた愛が小首を傾げた。
俺はそっと顔を寄せ、親指を離してからもう一度唇を重ねた。
顔の角度を変えるタイミングに合わせ、愛の開かれた唇の間に初めて舌をゆっくりと入れた。
ビクリと肩を震わせた愛の舌に軽く触れ、すぐに唇を離した。

『え、え、ちょ、ん?』

愛が視線を泳がせながら混乱している。
額同士を合わせ、俺は視線を合わせようとしない愛の目を見つめた。

「嫌だったか…?」

『ち、がう、びっくりしただけ…。』

愛は控えめに俺の目を見ると、片手で俺の襟元を緩く握った。
熱い吐息が余裕のない事を窺わせる。

『あの…もう、一回…。』

「…!」

まさか愛から求められるとは思わなかった。
お互いに引き寄せられるように唇を重ねた。
初めは緊張で唇を閉じていた愛がそれを開いた時、そっと舌を入れた。
愛は肩を硬くし、俺の肩口を切なげに掴んだ。
動揺して動かない愛の舌に軽く触れていたが、その裏に舌を入れ込んだ。

『っ、ん…。』

愛が戸惑いながらも俺に合わせて舌を動かした。
怖がらせないように慎重に深く入れ込むと、愛もそれに応え、舌を絡め合った。
絡ませる動作の息が合う。
初めての経験にも関わらず、俺たちは口付けの相性が良いと悟った。
間を置こうと唇を離した瞬間も同時だった。
愛は恍惚とした表情で微笑みながら言った。

『あったかくて…気持ち良い。』

俺は愛が嫌がるのではないかと思っていたが、嬉しい誤算だった。

『もうちょっと、駄目…?』

「…俺も同じ事を思っていた。」

求められて断る筈もなく、再び深い口付けを交わした。
部活の時間だという事も忘れ、甘い時間に陶酔した。



2017.5.22




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