重なる偶然-2

約束通り、俺は昼休みに弁当箱を持って校舎裏へと向かった。
木が立ち並ぶ其処は長閑で日当たりが良い。
既に愛が其処にいたが、誰かと電話しているようだった。

『はい、問題ありません。』

俺に背を向けて話している愛は集中しているのか、俺の存在に気付かない。
その声は随分と真剣だ。

『お願いします。

では、失礼します。』

スマートフォンを耳から離した愛は、それをカーディガンのポケットに入れた。
電話の相手が誰なのか、妙に気になった。
俺は周囲に誰もいない事を確認してから、愛を背後から羽織るように抱き込んだ。

『わ…?!』

愛が慌てて俺を見上げた。
お互いの顔が近くなり、唇が触れ合いそうになる。

『っ…!』

「先日驚かされたお返しだ。」

真っ赤になる愛を腕の中から解放した。
何やら文句を言いながら小さなレジャーシートを敷く愛を見ていると、自然と頬が緩む。

「レジャーシートを持ってきてくれたのか。」

『うん、用意周到でしょ?』

「そうだな、ありがとう。」

愛の頭を撫でると、愛は照れ臭そうに微笑んだ。
レジャーシートに隣同士で腰を下ろした時、二人で同時に言った。

『国光、話があるの。』
「愛、話がある。」

見事に重なった台詞で、俺たちは目を瞬かせながらお互いの顔を見た。
少しの沈黙後、遅れて愛が笑った。

『国光からどうぞ。』

「俺は二つある。

お前から話してくれ。」

可愛らしい弁当箱を膝に乗せている愛は小首を傾げた。

『どんな話?』

「大事な話だ。

お前は?」

『大事な話。』

お互いに大事な話≠ェある。
胸の奥が騒ついたが、表情には出さないように努めた。
愛は見抜いてしまっただろうか。

『じゃあ一つずつ交互に話そう?』

「分かった。

なら俺からだな。」

二人で弁当箱を開けると、一緒に合掌してから食べ始めた。
肩を触れ合わせながら、愛に尋ねた。

「昨日、人助けをしただろう。」

『え?』

玉子焼きを口に入れようとしていた愛が箸を止めた。
俺に詳細を求められているのを理解すると、愛は話し始めた。

『人助けというか、手荷物を自転車でぶつけられたお爺さんがいたの。

お財布の中身とか小物が散らばって、拾ってあげただけ。

でも如何して知ってるの…?』

「それは俺の祖父だ。」

愛は口を半開きにした。
冗談を言うなと突っ込まれるかと思ったが、そうではないらしい。
何故か玉子焼きを見つめながら、ぽつりと話し始めた。

『確かにね、ちょっとだけ国光に似てるような似てないような…とは思ったの。

でもあたしは見知らぬお爺さんにまで国光の面影を求めるくらい疲れてるのかな、と思って…。』

俺に似ている気がしたという愛の目は間違っていなかった。
愛は食べるのも忘れ、ぼんやりした顔で言った。

『世界は狭いね…。』

「祖父はテニス雑誌でお前の事を知っていた。」

テニス界だけでなく、スポーツ界で不二愛の名は有名だ。
結果を残せば残す程、マスコミやメディアからの注目度が高くなる。

「今朝、家族にお前と交際している事を伝えた。」

『え。』

「祖父がお前を紹介してくれと言っている。

昨日の感謝を直々に伝えたいそうだ。」

『え、え、はい?』

冷静な俺とは対照的に、愛は狼狽しながら真っ青になった。
実際に挨拶をする自分を想像し、緊張しているのだろう。

「一つ目の話は以上だ。」



2017.6.5




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