ホームセンター

ホームセンターを訪れたあたしは、売り物のマグカップを手に悩んでいた。
家族全員分の新しいマグカップを買うように頼まれたから、どれにするかを並んでいる。
お兄ちゃんはベージュが好きだけど、腹黒だから黒でもいいかな。
いや、大人しくベージュにしておこう。
黒のマグカップを棚に戻そうとしたその時、誰かに肩をぶつかられた。

「ああ?痛えじゃねーか、ブス!」

低い男性の声だった。
まだ顔も見てないのにブスだなんて。
せめて顔を見てから言いなさいよ。
ベージュのマグカップを買い物かごに入れたあたしは苦笑した。
住み慣れたこの街にも、通りすがりの他人に突っかかるような馬鹿がいるとは、情けない。
すると、ブス発言をした男性とは逆方向から、あたしの大好きな声が聞こえた。

「訂正しろ。」

「なんだてめえ?」

『国光。』

一緒にホームセンターまで来てくれた国光が険しい表情をしていた。
国光がこんな風に反論するなんて思わなかった。
大人の対応が出来る国光は、馬鹿な人を冷静に無視するような人なのに。
あたしの肩を守るように抱き寄せた国光は、男性を睨み付けていた。

「もう一度言ってみろ。」

『国光、もういいから。

おじさんも向こう行きなよ。』

国光をこれ以上怒らせると大変だよ?
おじさんと言ったけど、顔を見ると案外若いように思えた。
二十代前半といったところか。
また言いがかりをつけてくるのかと思えば、おじさんはあたしの顔を見て頬を赤らめた。

「な、何だよ、美人じゃねーか…。

連絡先交換しねーか…?」

あたしは眉を寄せ、国光の背後に隠れた。
態度を一変させたおじさんの背後から、別の女性が高いヒールをカツカツと鳴らしながら早足で歩いてきた。

「ちょっとアンタ何してんの?」

女性はおじさんと知り合いのようだ。
濃い化粧がおばさんみたいに見えるけど、この人も多分おじさんと同じくらいの年齢だ。
国光はあたしの背中に手を添え、催促した。

「愛、行くぞ。」

「其処の男、待ちなさいよブス!」

ブス…だと?
国光がブス――?
あたしの怒りスイッチがブチッという音と共にオンになった。

『…もう一回言ってみなさいよ。』

「愛、やめておけ。」

今度は国光があたしを制した。
おばさんは初めて国光の顔を見たのか、頬を赤らめた。

「な、何よ、イケメンじゃないの…。

おねえさんと連絡先交換しない…?」

次にはおじさんがキレた。
おばさんの襟首を引っ掴みそうな勢いで喋り始めた。

「はあ?!

何ナンパしてんだこのブス!」

「ブスって何よ!このブス!」

ブス合戦が始まり、これはなかなか収拾がつかなくなりそうだ。
あたしたちはその場をあっさりと離れた。
何時もあんな風に喧嘩しているのかな。
エスカレーターで二階から降りながら、肩の力を抜いた。
前に立っている国光の背中に言った。

『変な人たちだったね。』

「もう忘れろ。」

『そうする。』

あの人たちの顔を頭の中から放り投げた。
エスカレーターを降りると、二人で手を繋いだ。

『怒ってくれた時、嬉しかった。』

「俺もそうだ。」

誰が何と言おうと、国光は世界で一番かっこいいよ。



2018.5.31



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