遺跡

テレポートは無事に成功した。
嘗て小夜と二度訪れたタンバシティは天気が良く、変わらず穏やかだ。
その砂浜も人が疎らで、シルバーの心を落ち着かせてくれる。
ネンドールはシルバーと向き合い、無言無表情で浮遊した。

「また頼む。」

予知夢当日の三日前になれば、ネンドールはシルバーに預けられる。
シルバーが小夜に刺されるかもしれないという恐怖が、ネンドールの脳裏に過ぎった。
氷やゴーストタイプの技を食らうよりも酷い悪寒がした。

「小夜に宜しく言ってくれ。」

ネンドールは静かに頷き、音もなくテレポートした。
シルバーの目にはネンドールが何時も通りに見えたが、きっと何かを憂慮しているに違いない。
予知夢当日に小夜とシルバーが遭遇するとなると、二人の何方かがテレポートをする可能性がある。
二人の手持ちポケモンの中で、テレポートが可能なのはネンドールだけだ。
シルバーは一度だけ海を見つめてから、ポケモンセンターへと向かった。

受け付けのジョーイとラッキーからルームキーを貰い、最上階である三階へ続く階段を上がった。
トレーナーとすれ違う事なく、部屋へと到着した。
此処に何日滞在するか、シルバーはテーブルにリュックを下ろしながら考えた。
トレーナーカードを持つポケモントレーナーである限り、基本的には何日滞在しても問題ない。
ポケモンたちも海が見えるこの環境を気に入るだろう。

「少し探索するか。」

必要最低限の荷物を持ち、西にある洞窟に行ってみようと思った。
其処を奥深くまで進むとサファリパークに繋がっているが、外の岩肌を登ってみたい。
ラティオスがいれば空を飛べる。
ポケモンセンターから出ると、早速ラティオスをモンスターボールから出した。
甘えるのが好きなラティオスは主人の腕に頭を擦り寄せた。
自分の出番だと思うと、心が浮き立つ。

「西へ行く。

手伝ってくれ。」

シルバーに頭を撫でられ、ラティオスは頷いた。
軽く地を蹴ったシルバーの脚元を潜り、慣れた様子で背中に乗せた。
潮風を感じながら空高く飛び上がり、巨大な岩肌を一望した。

“大きい…。”

「楽しいピクニックになりそうだな。」

シルバーのジョークを聴きながら、ラティオスは岩肌に沿って飛行した。
分厚い雲に覆われた頂上は如何なっているのだろうか。
シルバーとラティオスは興味を抱きながら雲の中に入った。

「空気が薄いな…大丈夫か?」

“私よりもシルバーが…。”

「俺は大丈夫だ。」

シルバーは心配そうな表情をするラティオスの背中をぽんと叩いた。
少しばかり息苦しいが、その内慣れるだろう。
小夜との秘め事で体力もある。
非の打ち処がない小夜の身体を思い出しそうになったシルバーは、首をぶんぶんと横に振った。
小夜に欲求不満だと言われた際は驚いたものだ。
シルバーが小夜の事を何かしら考えている間に、ラティオスは目的地に到着した。

“シルバー、着いた…けど…。”

「…!」

其処に広がっていたのは遺跡だった。
槍のような柱はシンオウ地方にある遺跡と酷似している。
人やポケモンの姿は全くなく、誰かがいる気配もない
薄い霧に包まれ、奇妙な程に静まり返っている。
本来なら神聖で厳かな場所なのだろう。
だが、シルバーとラティオスは開いた口が塞がらなかった。

「何だこれ…。」

シルバーは間の抜けた声が出た。
白く巨大な石で出来た表面は至る処がゴミだらけ。
瓶や缶を始め、生ゴミやビニール袋が散らばっている。
酒らしい缶から中身が漏れ、貴重な石の表面に染みを作っている。
捨てられてから随分と時間が経過しているように見える。
物好きなトレーナーたちが此処まで登頂した記念にどんちゃん騒ぎをしただろうか。
ラティオスの背で呆然としていたシルバーは、其処に慎重に降り立った。
とりあえず、何か話そう。

「シンオウ地方にある槍の柱という遺跡に似ている。

関係あるのかもな。」

両ポケットに手を突っ込み、立ち尽くした。
ラティオスはシルバーの様子を窺っている。
シルバーは前髪を無造作に掻き上げ、ケンジを思い出した。

「ふっ…。」

予兆もなく小さく笑った。
自分は如何やらケンジに感化されたらしい。
ベルトのモンスターボールを手に取り、勢いよく全てを放った。

「てめぇら全員出てこい!」

リーダー格のオーダイルを筆頭に、クロバット、マニューラ、ジバコイル、ゲンガーが現れた。
五匹は目の前の惨状に愕然としたが、何故かやたらと気合いの入ったシルバーの声で我に返った。

「いいか、よく聴け。

綺麗さっぱりにするまで此処を出ないぞ!」

ポケモンたちは一斉に腕を掲げ、“おー!”と言った。
リュックを下ろしたシルバーは持ち歩いている大きなビニール袋を出し、それを広げた。
嗚呼、自分は一体全体如何してしまったのだろうか。
らしくないし、性に合わない。
何年か前の自分がこの状況を見たら、失神してしまうかもしれない。
それでも放っておく訳にはいかない。
衝動に抗わないまま、一同の大掃除が始まった。





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