心は傍に

ふと瞳を開けると、目の前には此方を向いて眠るシルバーの端整な顔があった。
今、何時だろうか。
カーテンの隙間から細く太陽光が差し込んでいる。
小夜は掛け布団からそっと手を出し、シルバーの赤髪に触れた。
今日という日が来てしまった。
シルバーに寄り添い、その胸元に額を擦り寄せた。
そして小さく微笑み、ぽつりと言った。

『狸寝入り。』

「…バレたか。」

シルバーは小夜の背に腕を回し、艶のある紫の髪に指を通した。

『起きたならそう言ってくれたらいいのに。』

「お前が何をするのか見ていたかったからな。」

髪に触れたり、擦り寄ったりする小夜が可愛らしかった。
因みに、ポケモンたちは隣の小夜の部屋で眠っている。

『本当に朝ご飯が終わったら此処を出ちゃうの?』

「そのつもりだ。」

オーキド博士と話し合った結果、ラティオスの背に乗って海を渡り、ワカバタウンまで向かう事にした。
仮に海を渡らないとすれば、トキワの森を抜けてトージョウの滝の前を通る遠回りなルートになる。
予知夢の現場となるであろう森を歩いて通るのは避けたい。
トキワの森で交流があったあのポケモンたちが元気にしているのか気になるが、予知夢の当日が過ぎれば逢いに行ける。

『寂しい。』

「俺も。」

『泣いていい?』

「いいぜ。」

小夜はシルバーの服をきゅっと握り、涙が滲んだ。
見送りの時まで泣かないと決めていたのに、既に涙を堪えられない。

「俺を信じろ。

絶対に帰ってくる。」

『信じてるよ、でも寂しいの。』

昨夜はシルバーがこの部屋を空ける準備をしているのを見て、小夜の胸は苦しくなった。
シルバーも荷物を確認しながら妙な虚無感があった。
寂しいと言ってもシルバーを困らせるだけだが、小夜は寂しいとばかり口にした。

『電話するよ。』

「ああ、待ってる。」

オーキド博士が買い直してくれたポケナビもあるし、ウツギ博士はテレビ電話を貸してくれるだろう。

「もう起きるか?」

『うん、でももう少しこのままで。』

まだポケナビのアラームは鳴っていない。
二人は寄り添い合い、お互いの体温を感じ合った。
時間が惜しくて堪らない。
二度寝をするのが勿体ない。
暫く抱き合った後、シルバーはポケナビのアラームを解除した。
時間を確認すると、起床時間よりも一時間早かった。

『行くか。』

「うん。」

二人で布団から出ると、手を繋いで洗面室へと向かった。
並んで歯磨きを始めると、小夜がシルバーに肩をくっ付けた。

「何だよ。」

『照れてるの?』

歯ブラシを咥えたまま、二人で微笑み合った。
お互いに洗顔と髪のセットを終わらせると、待っていたかのように唇を合わせた。
最初は唇が触れ合うだけだったが、舌を絡ませ合う濃厚な口付けへと変わった。
歯磨き粉のミントの味がする口付けだった。
腰が砕けそうになる小夜を壁に凭れさせ、シルバーは夢中で小夜の唇を塞いだ。
終わりの見えない口付けの合間に、小夜が息を荒げながら言った。

『っん…したくなっちゃうよ…。』

「朝だぜ、我慢しろ。」

そう言ったシルバーだが、小夜と同じ事を考えていた。
今すぐ、小夜が欲しい。
二人の目には欲情の色が浮かんでいた。

『我慢出来ない…って言ったら?』

「…付き合ってやる。」

『我慢出来ない。』

「ったく。」

シルバーはふっと笑ったが、時間に制限がある。
手短に済ませなければならないが、その自信はないに等しい。
シルバーは再び小夜の唇を塞ぐと、その服に手を滑り込ませた。





page 1/2

[ backtop ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -