ナルシスト-2

昨日ダイゴから紹介されたのは、ホウエン地方の南東に位置する街、ルネシティ。
隕石が落下して出来たクレーターに人が住み着くようになった街だという。
ジムに挑戦するトレーナーが時折訪れるが、その独特の地形により、観光客などは多く訪れないそうだ。
そして、ルネシティにはダイゴの友人がいる。
ルネシティのジムリーダーであり、水タイプのポケモンの使い手――ミクリだ。

「海を通ってルネシティに行くなら、此方の方向だよ。」

デボンコーポレーションの屋上で、ダイゴは北を指差した。
シルバーは広大な海を見つめた。
今日は快晴だし、心地良い空の旅になるだろう。

「君のラティオスなら半日もすれば着くんじゃないかな。」

「メガ進化して飛ぼうと思います。」

メガラティオスは飛行速度が速いだけでなく、その体毛は白と薄紫だ。
空と雲の色に紛れるし、人目につき難い。
ラティオスは準備運動がてら、身体を小さく旋回させた。
朝食を御馳走になったし、気合い充分だ。

「皆、気を付けてね。」

「お世話になりました。」

ヘリコプターの発着点の傍で、シルバーはダイゴから手を差し出された。
その手を握り、お互いの健闘を讃え合った。
ラティオスはダイゴに頭を下げ、敬意を表した。

「ミクリに宜しく言っておいてくれ。」

「はい。」

ダイゴは事前にミクリに連絡を取り、友人であるシルバーが行くと伝えてある。
ミクリは快く承諾してくれた。

「何かあったらすぐに連絡するよ。」

「お願いします。」

シルバーは事前にポケナビの番号をダイゴに教えた。
ダイゴはポケナビを持っていないが、持ち歩いている電話機やデボンコーポレーション内からシルバーに電話出来るようになった。

「それと、これは僕から君に。」

「?」

ダイゴはジャケットの内ポケットから、高級感のある黒く細長いケースを取り出した。
その蓋をダイゴが開けると、掌よりも小さく、宝石のように見える何かが現れた。
透明な雫型の石の中に、海色に煌めく神秘的な液体が揺らめきながら収められている。
ダイゴは目を見張るシルバーに説明した。

「神秘の雫≠ニいう宝石だよ。」

水タイプの技を強化するアイテムで、滅多に手に入らない宝石だ。
だがシルバーは既にキーストーンとメガストーンという貴重な石をダイゴから受け取っている。

「受け取れないとは言わせないよ。」

ケースの蓋を閉じたダイゴは、シルバーの片手を取ってそれを握らせた。
それはジュエリーケースらしく、手触りがとても滑らかだった。

「君のオーダイルにでも持たせてあげるといい。」

シルバーは上手く言葉が出ないまま、ケースを見つめた。
隣からラティオスの視線を感じてその顔を見ると、しっかりと頷いてくれた。
シルバーはケースを一度開け、神秘的な宝石を見つめた。
じっと見つめていても見飽きないような美しさがある。

「大切にします。」

シルバーの台詞に、ダイゴは紳士的に微笑んだ。
コレクションの一つだった神秘の雫だが、シルバーに必要だと思った。
贈る事に躊躇いはなかった。
シルバーはケースを大切にリュックにしまった。

「また逢おう。」

「はい。」

きっと遠くない内に逢う事になるだろう。
その時は小夜とシルバーは予知夢から解放され、ダイゴに隠していた話を打ち明けられるだろう。
ホウエン地方を旅する二人に、ダイゴは力を貸してくれる筈だ。
シルバーは右腕の裾を捲り、現れたキーストーンに指を添えた。
瞬く間に虹色の光が放出され、ラティオスの腕にあるメガストーンと共鳴した。
ダイゴはメタグロスのメガ進化を見慣れているが、幻のポケモンのメガ進化となると、胸が浮き立った。
シルバーは身軽にメガラティオスの背に飛び乗った。

「ありがとうございました。」

「じゃあ。」

ダイゴのその台詞を合図に、メガラティオスは急浮上した。
シルバーがダイゴに見えるように、大きく片手を上げた。
ダイゴも片手を上げ、友人を見送った。
この連日で赤髪の彼とは随分と打ち解けたように思う。
彼の心の奥底に潜む闇も垣間見えた気がする。
小夜を恋人に持つ彼が一体何を抱えて生きているのか、知りたいと思った。
ダイゴは空に飛び立ったその姿が見えなくなるまで、ずっと見守っていた。



2017.10.7




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