もし仮に-2

バクフーンとネンドールの会話を聴いていたエーフィたちは、黙り込んだまま其々の思考をぐるぐると巡らせていた。
ハガネールもこの話題になると憤慨していたのも忘れ、真剣に考え込んでいる。
今頃小夜は自室でシルバーと話しているだろう。

“予知夢が現実味を帯びてきて…怖い。”

ネンドールの声は傍にいるエーフィとボーマンダ、そしてスイクンの三匹の耳に届いていた。
三匹共、芝生の上にいる。
エーフィは大人しく座り、大好きな太陽光を浴びていた。
ボーマンダは翼を畳み、見えないゴーストタイプのポケモンでも見えているかのように遠い目をしていた。
そしてスイクンは芝生に上品に身体を預けながら、雲の浮かぶ空をずっと見上げていた。
何の予兆もなく過去に飛び、亡き彼に遭ったシルバーは、小夜に何を語るだろう。
亡き彼に心から愛されていた小夜は、現在の恋人であるシルバーに何を語るだろう。

“小夜やオーキド博士が言ったように、シルバーが過去に飛んだのは大掃除が引き金っぽいね。”

その場にいるポケモンたち全員が、エーフィのその台詞を聴いていた。
シルバーたちが大掃除をしたという遺跡は、槍の柱という遺跡と酷似していた。
槍の柱とは、時を司る神として崇められているディアルガというポケモンに深く関係がある場所だという。
ボーマンダが慎重に言った。

“小夜もオーキド博士も、シルバーの行いを見ていたディアルガがシルバーを過去に飛ばしたって推測したけど…。”

出逢った当初のシルバーを知るボーマンダは、シルバーがポケモンたち全員と遺跡の大掃除をしたと聴いた時は驚いたものだ。
神と崇められるポケモンがただ悪戯にシルバーを過去に飛ばしたとは思えない。

“シルバーが三年前のあの日に飛ばされたのは、やっぱり意味がありそうだね。”

エーフィがそう答えた。
なら、何故あの日なのか。
特に意味がありそうなのはUSBメモリだ。
その中に入っていたのは、電子データを破壊するウイルスソフトだ。
エーフィは空を仰ぎながら言った。

“シルバーが何かの電子データを破壊するのかな…。

もしかしたら小夜関連だったりするのかな…。”

エーフィの声は普段の気丈さとはかけ離れて弱々しかった。
ずっと黙っていたスイクンが言った。

“彼なら小夜のデータを確実に削除してみせた筈だ。

小夜関連である可能性はゼロではないかもしれないが、極端に少ないと考えて構わないだろう。”

全員がその台詞に納得した。
スイクンは小夜の保護者的立場のポケモンとして、小夜を解放してくれた彼に感謝していた。
七年前に彼と戦闘になったが、その当時から彼に良い印象を持っていた。
たとえロケット団に所属しながら任務を遂行していたとしても、誰よりも小夜を想っている人間だった。

エーフィの不安だった気持ちが和らいだ。
それは自分が彼を信じているからだ。
バショウの事が物凄く嫌いだったのに、何時から信じるようになったのだろうか。
スイクンは皆に言った。

“小夜の心が不安定にならないように、私たちが支えていこう。”

きっと今、シルバーのポケモンたちもシルバーに対して同じように思っているだろう。
ポケナビで聴いたシルバーの声は憔悴しているようだった。
暫くはゆっくり休んで欲しい。

もし仮に、シルバーと同じように三年前に飛び、バショウに逢ったとしたら。
ハガネールとネンドールの二匹が考えた事を、エーフィたちも同じように考えていた。
彼と話したシルバーの精神力は非常に強かった。
エーフィは空で此方を見守っているであろう彼に、心の中で言った。

前に言ったよね。
しっかり見守ってね、って。
お願い。
今日も私たちを見守っていて。



2017.7.28




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