ポケモンたちの想い-2

シルバーのポケモンたちが主人との絆を確かめ合っているのを見て、小夜の心は温かくなった。
だが小夜は自分が場違いな気がして、思わず立ち上がった。
俯いたまま走り去ろうとしたが、その手首を誰かに掴まれた。

「待て。」

『…っ…シルバー…。』

一度はシルバーの目を見た小夜だが、再び俯いてしまった。
溜まっていた涙が一粒、整えられた芝生に音もなく落ちた。
此処で逃げても、何の意味もなさないと分かっているのに。

『誰にも顔向け出来ないから…離して。』

「駄目だ、話し合おう。」

手首を掴まれたままでも走り出そうとした小夜を、シルバーはきつく抱き締める事で制した。
シルバーの首元に瞳を見開く小夜の涙が触れた。

「お前のせいじゃないんだ。」

オーキド博士の前にも関わらず、シルバーは小夜を離さない。
大好きな人の温もりが涙に拍車を掛け、小夜は瞳を瞑った。

「お前は何の理由もなく、我を忘れて暴走したりしない。

ロケット団のせいなんだ、お前のせいじゃない。」

『でも暴走を制御出来ないのは私の責任で…。』

「その暴走の引き金になったのはロケット団だ。」

小夜はシルバーの背に両腕を回した。
シルバーがくれる温もりが優しくて、泣きながら気持ちをぶつけた。

『私…普通の女の子になりたい…。』

シルバーは黙って腕の力を込めた。

『普通の女の子として、オーキド博士の本当の孫に生まれたかった…。』

成り行きを黙って見守っていたオーキド博士は、自分の名前がこのような台詞内に出てきた事に驚いた。
本当の孫になりたかったと言う小夜に嬉しさを覚えながらも、素直には喜べないこの状況が複雑な感情を生む。

『能力なんて要らない…!

普通の女の子としてシルバーの隣にいたかった…。』

小夜は普通の女の子≠ニいう言葉を三度も使った。
ピュアーズロックやトキワの森でサトシたちを助けたこの能力を、一時は誇りに思った事さえあった。
気配感知は便利な事この上ないし、癒しの波導はシルバーの命を救った。
能力に対して否定的な考え方はしなかった。
だが能力の暴走がシルバーの命を脅かす今、そうは思えない。


―――キュウコンみたいに千年も生きられなくていい。

―――だからシルバーと一緒に歳を取りたいな。


ニューキンセツ行きの船のデッキで小夜がそう発言していたのを、シルバーは鮮明に覚えている。
小夜の背中をゆっくりと撫でた。

「能力がなかったら、ポケモンたちと話せないぜ?

それに俺とお前も出逢っていなかったかもしれない。」

シルバーの肩口に額を当てていた小夜は、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳から溢れる雫をシルバーの親指が拭った。

「俺はお前と出逢えてよかった。」

『本当に?』

「嘘は言わない。」

小夜はシルバーに縋り付くように抱き着き、溢れる涙を止められなかった。
シルバーは小夜の肩をあやすように撫でた。

「さっきあいつらと話した通り、俺とあいつらなら大丈夫だ。」

オーダイルたちが頷いた。
不安がない筈がない。
それでも、主人を信じている。

“小夜。”

エーフィの声だった。
シルバーが小夜をそっと離し、小夜は親友と見つめ合った。

“私は小夜と一緒だよ。

これからも、ずっと。”

エーフィは耐えてきた涙を零し、笑顔を見せた。
その隣にいたバクフーンが小夜に両腕を広げた。
シルバーに軽く背中を押された小夜は、其処に飛び込んだ。
体温の高いバクフーンの身体が太陽光のように温かい。

“小夜、怖いよね。

俺は小夜じゃないから小夜の本当の怖さは分からないけど、ちょっとでもいいから共有したい。”

スイクンが小夜の腕に頬を擦り寄せ、小夜はその顔に身体を寄せた。
額のクリスタルに温度はないが、何処か温かかった。

“小夜を守るから。”

たとえ身体的には守る事が出来なくても、脆くなっている心を守りたい。
小夜の保護者的立場として。
そして小夜を大切に思うポケモンの中の一人として。
すると鋼の巨体が屈み込み、小夜の顔を覗き込んだ。
ハガネールだ。

“彼の魂も君を守っている。”

脳裏に浮かぶのは銀髪で美青年だった彼の姿。
最期まで小夜に尽くした彼は、身を挺して小夜の幸せを望んだ。
小夜は涙ながらに微笑み、ハガネールの大きな顎を撫でた。

“俺も小夜によしよしされたいぞ。”

甘えん坊のボーマンダが小夜の肩に額を押し付け、撫でて欲しいと主張する。
小夜はその長い首を擽るように撫で、ボーマンダは御満悦の表情だ。
小夜を見守るネンドールは静かに目を閉じ、亡き元主人に思いを馳せた。

お願いです。
二人を守って下さい。
如何か、如何か――



2017.3.29




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