それは突然に

入学してから2ヶ月が過ぎ、6月に入った。
気になるのは身体の不調だ。
裕太お兄ちゃんと国光の前で、妙な目眩がした。
あの日以降も、あれは時々現れてあたしを蹟かせようとする。
でも、誰にも相談出来なかった。
華代にも家族にも、そして国光にも。
ちょっとした事で誰かに心配させるのも嫌だったからだ。

ラブレター事件の不安要素がなくなり、国際大会まで6日となった。
ドイツ入りするのは4日後だ。
テニススクールから夜の9時に帰宅したあたしは、寝る前に勉強をしていた。
時計は23時を知らせている。

『絶対に国光と同じ高校に行くんだから。』

ぶつぶつ言いながら、学習机に向かう。
成績が酷くてもスポーツ推薦で入学出来ると気付いてしまったけど、国光と一緒に頑張って勉強すると決めたんだ。
先月末には中間テストがあったけど、手応えを感じている。
結果はもうすぐ分かる筈だ。
期末テストは国光の眼鏡がすっ飛んじゃうくらいに良い点を取ってやるんだ。
でも、海外の大会に参加するあたしは、学校の出席日数が比較的に少なくなってしまう。
まずは勉強で皆に置いて行かれないようにしなくちゃいけない。
海外遠征中は課題があり、各教科の先生からわんさかとプリントを貰う。
テニスの練習に時間を割く為にも、課題が円滑に終わるように勉強しなきゃ。


―――ブーッ、ブーッ


『!』

後ろのテーブルに置いてあるスマホが振動した。
この時間の電話は国光からだ。
素早く振り返って頭を動かした時、それは突然やって来た。
ぐるぐる回転するような目眩。
強烈な頭痛。
そして、今回は吐き気もした。

『っう…!』

バランスを取れずに椅子から落ち、カーペットの上に転倒してしまった。
地に足が着いていないような感覚がする。
ひたすら頭の中がぐるぐる回り続ける。
少しでも動くと吐いてしまいそうだ。

『っ、た…すけ…て……。』

回転するような目眩。
押さえ付けられるような頭痛。
テーブルまで這い蹲るけど、視界は完全に見えていない状態だ。
手探りでスマホを取ろうとするけど、上手くいかない。
それでも画面に触れる事が出来た。

《もしもし?》

国光の声が小さく聞こえる。
偶然にも通話のボタンをタップ出来たんだ。
でも、力尽きてカーペットに倒れ込んでしまった。

『く、にみ……。』

助けて。
助けて、お願い。

《……愛?》

涙が溢れるのが分かった。
声が聞こえるのに、応えられない。
今日もきちんと9時までに帰ったよ。
ごはんだって食べたし、テニスの調子も上がってるよ。
そっちは如何?
毎晩、あたしが寝落ちしない限りはお互いの事を報告し合うのが日課。
国光はあたしが無茶をしないか心配なんだ。

《愛、聞こえているか?》

涙が溢れたけど、瞼を動かすだけで余計に目眩がしそうで怖い。
ついに目を閉じた時には、強烈な吐き気がした。
思い切って腕を動かし、上半身を起こした。
未だにはっきりしない視界の中、スマホの画面を指で無造作に叩いた。


―――ツーッ…ツーッ…


敢えて電話を切ろうと試みたら、上手くいったみたいだ。

『うっ、げほっ…!』

ついにむせ込んだけど、嘔吐はしなかった。
助けて欲しい。
でも、こんな所を国光に聞かれたくない。
完全に力を抜き、カーペットに身体を預けた。

此処で国光と勉強したんだよね。
あの後、あの公園で軽くラリーをした。
国光は左肘を無意識に庇い、左肩に負担がかかるかもしれないと思う。
そう指摘した時、優しく言ってくれた。

―――ありがとう。

回り続ける頭の中にも、国光の端整な顔だけは鮮明に思い出せる。
あたしはこのまま如何なるんだろう。
もし仮に、万が一にでもあたしが死んだら?
またこの前みたいに、国光は女の子から沢山のラブレターを貰うんだろうな。
将来は素敵な女の子を見つけて結婚するんだろうな。
きっとその人はあたしと違って凄く綺麗で頭が良くて、とっても優しい人だ。
温かい家庭を築いて、幸せに生きるんだろうな。
そう考えると余計に涙が溢れたけど、何故か気持ちが楽になった。





page 1/2

[ backtop ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -