超高速お断り

只今、夜の10時。
自室で学習机に突っ伏すと、今日のラブレター事件が嫌でも思い出された。
色々と思い出すだけでくらくらするし、頭痛がする。
ラブレターを押し付けられた鳩尾すらも痛い気がする。
はぁーと溜息を吐き、国光が貸してくれた数学のノートを見た。
国光らしい字が並んでいる。
丁寧で真面目そうで、メモもばっちりだ。
先日、あたしは国光から1年生の頃のノートを沢山借りた。
好きな人から昔のノートを借りるなんて…

『リア充なんだけどな…。』

あのラブレターが目の裏に焼き付いて離れようとしない。
宿題が一向に進まずにいると、傍に置いてあったスマホが振動した。
それを俊敏に取り、画面に映る恋人の名前を確認してから通話を受けた。

『もしもし…。』

《元気がないな、愛。》

『当たり前でしょ…。』

溜息を吐きたくなったけど、国光に申し訳なくて出来なかった。
ラブレターの内容を割り切って聞いてみよう。

『ラブレターには何て書いてあったの?

お付き合いして下さいとかあいらぶゆーとか?』

《…聞きたいのか。》

『やっぱり結構です!』

片手で頭を抱え、学習机におでこをゴツンと付けた。
ラブレターを読んでいる国光を想像するだけで、押し入れに片付けてあるダンベルをぶん投げたくなる。

《明日返事をする。

お前にその人を呼び出して欲しい。》

『はい?!』

《昼休みに一階の人が通らない方の渡り廊下で話す。

如何しても心配なら何処かで聞いていても構わない。》

スマホが手から滑り落ちそうになり、慌てて持ち直した。
渡り廊下は一階に幾つかある。
その中でも人が通りそうで通らない場所を選択したみたいだ。
屋上や体育館裏などのシチュエーションを心配したあたしの為だろう。
最も気掛かりなのは呼び出し≠ニいう単語だ。

『国光サン……本気?』

《本気だ。》

『如何してあたしが呼び出すの…?』

《俺に教室まで行って欲しいのか?》

その子の教室を訪れる国光を想像すると、顔から血の気が引いた。
3年生が1年生の教室を訪れる自体が暗黙のタブーなのに、それがあの手塚国光なら尚更大騒ぎだ。
瞬く間に妙な噂が飛び交うだろう。

『わ、分かった、呼び出す。』

《すまないな。》

『いえ別に…。』

何だか気まずくて、かしこまってしまう。
今のあたしの顔は情けないに違いない。
一通のラブレターにこんなにも振り回されるなんて。

『あたしってこれからもこんな事がある度にダメージ受けるのかな…。』

《お前が言う変人の件があった時、俺も似たような事を思った。》

『如何いう事?』

《お前の兄が言っていたが、お前は頻繁に異性の気を惹くらしいな。》

お兄ちゃんってば何を言ってるんだ!
確かに小さい頃から他の女の子よりは男の子からアプローチされていた気はする。
でも、それはきっとあたしがテニスでちょっくら有名だったからだ。
国光に如何言い返せばいいのか分からない。

《俺も心配している。》

『らしくない、変なのー。』

《…。》

『ごめん、冗談。

あたしは手塚国光一筋です。』

あたしが異性の気を引くのを国光が心配するなんて、実に変な話だ。
確かにこの前の変人の件はびっくりしたけど、あんな事は今後滅多にないだろう。
あたしたちが交際している噂は学校中に広まった訳だし。

《お前をしっかり捕まえておかないとな。》

『首根っこ鷲掴んでていいよ。』

あたしがクスクス笑うと、国光も笑ってくれたような気がした。
どんよりしていた気持ちが軽くなった。

《すまないが、明日は頼んだぞ。》

『頑張ってみる。

またその時連絡するね。』

《分かった。》

明日は山場。
テニスの国際試合よりも緊張しそうだ。





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