鳩尾にラブレター

裕太お兄ちゃんと仲直りした翌日は、曇り空の月曜日だ。
ただ、あたしは困惑していた。
わざわざ放課後のHRが終わった瞬間にあたしのクラスまで出向き、体育館裏まで呼び出した女の子。
同学年みたいだけど、名前が分からない。
気の弱そうな黒髪ぱっつんロングの女の子は、両目を潤ませながら祈るようなポーズで言った。

「不二さん、本当に手塚先輩とお付き合いしているの…?」

『…は…はい。』

「そんなぁ…。」

どんどん迫られ、思わず敬語になったあたしは顔が引き攣るのを止められない。
これはきっとあれだな。
「私も手塚先輩の事が好きなんだから、別れてよ!」なんて言われるフラグだな。

「入学した時から手塚先輩にずっと憧れていたの。」

この人もあたしと同じ頃から国光が好きなんだ。
少し胸が苦しくなった。

「貴女と同じで、手塚先輩が好きなの。

私は貴女と違って美人じゃないし、テニスだって出来ないけど…それでも…」

最近になって美人と言われる事が多い気がするけど、自分では全くそう思えない。
自分に自信がないからこそ、テニスに奮闘する。

「それでも、気持ちを伝えたいの。」

フラグは間違っていたようだ。
女の子はポケットからピンクの封筒を取り出し、思い切って差し出してきた。
無地の封筒にはハートのシールが貼ってある。

「これを手塚先輩に渡して欲しいの…!」

所謂、ラブレターというやつか。
観月さんの時みたいに冷や汗が出る。
続けざまに頭痛がして、頭を抱えたくなった。
好きな人の恋人にラブレターを渡して貰うなんて、どんな神経をしているんだか。
受け取るか、受け取らないか。
受け取りたくなんてない。
此処は断るべきだ。
断ろうとした時、鳩尾に手紙をドスッと押し付けられた。

『ぐふ…!』

「お願いね、不二さん…!」

落ちそうになる手紙を反射的に手に取ってしまった。
女の子は爆走し、姿が見えなくなってしまった。
あたしは呆気に取られ、口が半開きになった。
現実逃避モードに突入したいけど、部活に行かなきゃ。
手紙を見ないようにしながら、テニスバッグの外ポケットに入れた。
部室に向かって歩き出すと、慌ててスマホを取り出した。
連絡帳からお馴染みの人物を呼び出し、通話ボタンをタップした。
お願い、出て!

《もしもし?》

『出てくれた!

うう、華代ちゃーん!』

《愛、如何したの?

こんな時間に珍しいね。》

今は時間大丈夫?
何をしていたの?
そんな質問をさっぱり忘れ、とりあえず助けを求める。

『同じ学年の女の子に呼び出されて、国光へのラブレターを受け取っちゃったの…!』

《えっ、もう何してるの!

断らなかったの?》

『無理矢理渡されちゃって…。

鳩尾にドスッと…。』

近くに人がいない事を確認ながら、人に聞こえないようにひそひそと話す。
テニスコートへの道をなるべく自然に見えるように歩く。

『国光に渡したくない…。

破いて捨てちゃいたい…。』

《渡さないと、多分また呼び出されちゃうよ。》

『それもそうね…。』

《手塚さんなら大人な対応をしてくれるよ。

手塚さんに相談してみたら?》

『そうする……。』

あたしのバッグにあのラブレターが入っていると思うと、何時もよりバッグが重く感じた。
片手で頭を抱えた。
今日は不運だ、頭が痛い。
男子テニスコートが見えたから、ちらりと窺ってみる。
1年生の準備を監視しながら腕を組み、仁王立ちする国光を発見した。
極めて何時も通りだ、今日もかっこいい。
すると、バチッと目が合った。

『っ…!』

不自然過ぎるくらいに勢いよく顔を背けてしまった。
うわ、やってしまった。
国光は鋭いから、何か勘付くかもしれない。

『今、国光と目が合っちゃった…。』

《後でちゃんと話すのよ?》

『うん…また電話するね。』

《考え過ぎないでね。

電話待ってるよ。》

天使華代との電話が終わり、部室前で深く溜息を吐いた。
某コミュニケーションアプリを開き、国光にメッセージを打ち込んだ。

―――――
今日、帰りに話せますか?
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