裕太との和解

裕太お兄ちゃんが帰ってるなんて、一言も聞いてない!
お姉ちゃんもお兄ちゃんも如何して教えてくれなかったの!

国光は帰り道で対聖ルドルフ戦がどのような試合だったのかを説明してくれた。
途端に観月さんの事が嫌いになった。
でも、チョコレートマドレーヌに罪はないし、菊丸先輩と桃先輩と一緒に美味しく頂いた。
それはいいとして、問題は裕太お兄ちゃんだ。
手を洗った後にハンドタオルで手を拭くと、壁に手をついて俯いた。

『うう、何をどんな風に話せばいいんだ…!』

「…愛。」

『ぎゃ?!』

「な…何だよ、そんなに驚く事ないだろ。」

振り向くと、裕太お兄ちゃんがいた。
思わず後退りしたくなったけど、洗面台が邪魔をする。
裕太お兄ちゃんは頭を掻きながら言った。

「あー、あのさ、えっと…。」

『……。』

きちんと話さなきゃ。
また昔みたいに戻りたいんでしょ?
裕太お兄ちゃんに色々と伝えたいんじゃなかったの?
いざ対面すると、頭がこんがらがってくらくらする。
すると、裕太お兄ちゃんの方が先に話してくれた。

「愛、ほんとごめん。

今まで拗ねてたっていうか……その、無視したりして。」

『え…。』

あの裕太お兄ちゃんが謝っている。
あたしの目を真っ直ぐに見て、勇気を出しているのが分かる。

「俺が子供だった。

お前よりも一つ年上なのに、情けないよな。」

『そ、そんな事ないよ。

あたしももっとちゃんと話そうとすればよかった。』

「いや、完全に俺が悪かった。

ごめんな、愛。」

『もういいの。』

随分と長く絡まっていた糸が解れていく。
嬉しくて、泣きそうになりながら微笑んだ。

「なっ、泣くなって!

あー、そうだ、お前手塚さんと付き合ってるんだってな。」

『いきなりその話?!』

話の内容に国光が出てきた瞬間、恥ずかしくなった。
話を逸らすにしては相応しくない内容だと思う。

「昨日観月さんから聞いた時、マジでびっくりした。」

観月と聞いた瞬間、あたしの笑顔が引き攣った。
でも、裕太お兄ちゃんはそれに気付かずに話し続ける。

「観月さん、お前の事本気だったっぽいぞ。」

『……え。』

本気だったっぽいって何?
あの変な笑い方を思い出すと寒気がする。

「素敵な妹さんですねってしつこかったんだ。

それで、好物を訊かれたんだよ。

手塚さんと付き合ってるって噂で聞いた時は、ショック受けてたみたいだし。」

『そ、そんなの知らないよ。

この話は終了!

ラズベリーパイ食べに行こう!』

「おい、引っ張るなよ!」

こうやってまた話せるようになったんだから、観月さんの話は蚊帳の外に放ろう。
裕太お兄ちゃんの二の腕を引っ張り、廊下を歩いていた時。
頭がぐるんと回るような目眩がして、押さえ付けられるような頭痛が襲った。
同時に鐘のような低い耳鳴りがした。

……何、これ?

右に転倒しそうになったけど、反射的に裕太お兄ちゃんが受け止めてくれた。
頭の中がぐるぐる右回転していたけど、不思議とすぐに引いた。
しっかり両足で立てるようになったし、気のせいかと思うくらいに頭痛も綺麗さっぱりだ。

「おい、大丈夫か…?!」

『あはは、躓いちゃった。』

「ったく、ドジなのは変わってねぇな。」

裕太お兄ちゃんは苦笑いすると、あたしの頭をぽんぽんと叩いた。
無理に笑顔を作ったけど、不安が残った。
あのぐるぐる回る目眩に覚えがある。
一昨日、観月さんから猛ダッシュで逃げた時、あの目眩で転倒したんだ。
頭痛も最近多いし、やっぱり疲れているのかもしれない。

「おーい、置いてくぞ。」

『あ、待って!』

今は裕太お兄ちゃんと仲直りした幸せに浸ろう。
身体の不調を頭から振り払い、リビングへと向かった。
ラズベリーパイのいい匂いがした。
この日の夜は家族全員で賑やかに話が出来た。



2017.1.15





page 1/1

[ backtop ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -