意味不明なメッセージ

男子テニス部の部活動が終了し、レギュラー陣専用のロッカーで皆が着替えていた。
持ち歩きのデオドラントスプレーを使用し、俺も着替えを終えた。
ふとスマートフォンを見ると、愛からコミュニケーションアプリを通じて連絡があった。

―――――
変な笑い方に運命だとか言われ
―――――

変な笑い方?運命?
文章になっていないメッセージに、思わず硬直した。
きっと慌てて送ったんだろう。
本当は如何いった文章を送りたかったのかを考えてみる。
「変な笑い方をする人」に「運命だと言われた」だろうか。
愛からの送信時間を見ると、学校を出てから然程時間が経っていない。
テニススクールに行く途中で何かあったのかもしれない。

「お、手塚ー!

もしかしててづカノジョ≠ゥら?」

隣にやってきた菊丸が猫のように陽気に笑う。
愛をてづカノジョ≠ネどと呼ばれたくはないが、今はそれどころではない。
俺の頭は愛の文章の意味を考える事に大半を使用している。

「英二、あんまり手塚をからかうなよ。」

「だって大石、あの手塚に彼女なんてびっくりじゃんか!

大石も乾も、前から知ってたんなら何でもっと早く教えてくれなかったんだよー。」

俺の眉間に深々と皺が寄る。
「変な笑い方をする人」とはどのような人物だろうか。
まず男性なのか、女性なのか。
運命などと言うなら、男性かもしれない。
後々、電話で詳細を聞かなければ。
しかし、愛のテニススクールが終わるのは夜の10時を回る時もある。
愛からの返信は遅くなりそうだ。

「手塚。」

「……。」

「ねぇ、手塚。」

「…ああ、不二か。」

俺が余りに険しい表情だったからか、既に帰宅準備を済ませた不二が声を掛けてきた。
俺は自分がスマートフォンを持ったままの体勢で暫く硬直していた事に気付いた。

「如何かした?」

恋人からのメッセージを勝手に兄に見せるのは気が進まないが、今は不二に頼りたかった。
後々、愛に謝罪しよう。

「これを見てくれ。」

「何?」

不二に愛からのメッセージ画面を見せた。
すると、不二は険しい顔付きになった。
愛が集中している時に見せる顔に似ていると思った。
菊丸や乾までもが覗こうとしているのを、大石が必死に制している。
俺は騒ぎの発端になっているスマートフォンをポケットにしまった。
不二が自分の顎に手を遣り、考える素振りを見せた。

「ナンパされたのかな。」

自分の耳を疑った。
ナンパ≠ニいう言葉も聞き慣れないものだ。
自分には無縁だと思っていたのに。

「愛は実年齢より上に見えるし、よくナンパされるんだよ。」

不二は俺の心配を煽りたいらしい。
表情には出さずとも、俺の心の内は騒ついていた。
それにも関わらず、不二は困ったように微笑んだ。

「手塚、心配し過ぎだよ。

もし本当に愛に何かあったなら、もっと短い文で送ってくると思う。」

確かに、それには一理ある。
やはり俺は心配し過ぎているのだろうか。

「心配なら愛の通っているテニススクールに電話してあげてもいいよ。

如何する?」

レギュラー陣全員が俺と不二の会話に注目していた。
俺は少し考えてから言った。

「愛の邪魔をしたくはない。」

「分かった。」

本当に何かあったら連絡するから、と不二は付け足した。
気になるのは山々だが、愛からの返信を待とう。



2017.1.5




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