挑発返し

あたしは女子テニス国別対抗戦のジュニア代表ながら、青学女子テニス部のレギュラーだ。
更に週に3回は部活前に生徒会がある。
部活帰りにはテニススクールで気が済むまで練習するし、土日もテニスで丸潰れ。
忙しい方だと思う。

桜乃ちゃんから部活に行こうと誘われたあたしは、放課後の廊下を歩いていた。
すると、心配そうに指摘された。

「愛ちゃん疲れてない?」

『ちょっとね。』

苦笑いになってしまった。
生徒会、部活、テニススクール、それだけじゃない。
今年の青学女子テニス部のレギュラーはかなり優秀で、地区予選を勝ち上がった。
次の日曜日に都大会の決勝がある。

「来月はドイツで大会があるんだっけ?」

『うん、ベルリンで。』

来月の上旬、ベルリン国際女子ジュニアトーナメントに日本代表として出場する。
今回は団体戦ではなく、個人のシングルスだ。
大会初の3連覇がかかっているから、今まで以上に練習に打ち込んでいる。
その疲労が顔に出てしまっているのは否めなかった。
最近は軽く頭痛がするし、やっぱり疲れているかもしれない。
華代も「心配だから息抜きしてね」と言ってくれたし、ペースを落とした方がいいかもしれない。

「あ……リョーマ君。」

「竜崎。」

『!』

一階の渡り廊下に差しかかった時、ラケットを片手に持った越前君に遭遇した。
桜乃ちゃんが片想いしている相手だ。
あたしは用事を思い出したとでも言ってその場を走り去ろうかと思った。

「不二先輩の妹じゃん。」

越前君が桜乃ちゃんじゃなくてあたしに声をかけてきたから、あたしは目を瞬かせた。
越前君と話すのはこれが初めてだ。

『初めまして、越前君。』

「知ってるよ、アンタの事。」

『光栄です。』

桜乃ちゃんが越前君を見て顔を赤くしている。
恋する乙女は可愛らしい。
さて、どのタイミングで二人にしてあげようか。

「ねぇ、アンタって不二先輩の練習相手なんだよね。」

『まぁそうだけど。』

羆落としを練習するお兄ちゃんの為に、何度スマッシュを打った事か。
越前君が挑発的にラケットの先を向けてきた。
勿論、相手はあたしだ。

「今から俺と勝負しない?」

『はい?』

初対面なのに、いきなり勝負を仕掛けてくるとは。
思いっ切り顔を顰めてしまった。
越前君は好戦的に口角を上げている。

「俺は全米ジュニアチャンピオンで、アンタは全日本ジュニアチャンピオン。

お互いに1年レギュラー。

俺と勝負してみたくない?」

『みたくない。』

即答しても、越前君の表情は変わらない。
あたしは越前君の横を素通りしようとした。
すると、越前君が自信に満ちた声で言った。

「負けるのが怖いんだ?」

『違う。』

「じゃあ何。」

あたしは越前君の斜め後ろで立ち止まり、振り返ってくる顔を見た。
桜乃ちゃんがそわそわしているのが視界の片隅に見える。

『めんどくさいから。』

お邪魔虫はさっさと退散しよう。
かと思ったけど、一ついい案が浮かんだ。
あたしもお兄ちゃんの言うキューピッドになろうではないか。
桜乃ちゃんに聞こえないように小声で言った。

『今度の土曜日、桜乃ちゃんにテニスを教えるって約束してくれるならいいよ。』

「何で。」

『知り合いでしょ?』

あたしは好戦的に微笑んだ。
とどめの一言をくれてあげよう。

『負けるのが怖いんだ?』





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