生徒会長と書記

私立青春学園中等部の春。
入学式が無事に閉幕してから2週間が経ったけど、生徒会室は慌ただしかった。
最高学年になった3年生は卒業した先輩を引き継ぎ、自らが生徒会を引っ張っていかないといけない。
更に、新たに生徒会の仲間入りをした1年生に仕事を教えないといけない。

「愛ちゃん、これ下書きに使っていい紙だから。

これ書いて貰える?」

『はい、分かりました!』

あたしはこの学校の1年生。
ボールペン字の資格を持っているあたしは、生徒会の書記に立候補した。
すると、見事に受かった。
生徒会は毎日ある訳じゃない。
中学生でも出来るような仕事や、学校行事に関する会議などが週に3日あれば多い方だ。
だけど書記のあたしは、時間があればこうやって生徒会で仕事をしている。
テキパキしている女子の先輩から書類を受け取り、早速目を通した。

「テニスの練習はしなくて大丈夫?」

『大丈夫ですよ。』

「愛ちゃんはほんと強いもんね。

女テニのレギュラーに決まったんでしょ?」

『実はそうなんです。』

あたしの経歴は自慢出来るものだった。
幼稚園の頃からテニススクールに通い、お遊びでテニスを始めた。
周りの受講生よりも上達するのが早かったと自負出来る。
全日本女子テニス選手権の12歳以下の部門を6歳で優勝。
それから今日に至るまで、負けなしの6連覇。
今季からは国内戦だけシニア部門に繰り上がる。
スポーツの強豪校である青学では、あたしはちょっとした有名人だった。
何故、テニスオタクでまだ1年生のあたしが生徒会に立候補したか。
それには大きな理由がある。

「不二。」

『はい!』

名前を呼ばれて返事をしたと同時に、胸が高鳴る。
生徒会室の最も大きなデスクで仕事をするその人の元へ歩み寄った。

「これを頼む。」

中学3年生とは思えない程、大人の風格を持つ人。
端整な顔立ちは女子の目の保養。
眼鏡の奥にある綺麗な瞳は、聡明さを物語っている。
その人こそ、生徒会長である手塚国光先輩。
あたしは入学式で生徒代表として舞台で挨拶をしていたこの人に、一目惚れしてしまったんだ。
かっこよくて、こんなに近くに寄ると目眩がしそう。

「不二、聞いているか?」

『あっ…はい!』

あたしとした事が、身惚れてしまった。
手塚先輩に渡された紙を受け取る。
その時、手塚先輩の長い指先があたしのそれに偶然触れた。
ほんの一瞬だけなのに。

『…っ…!』

自分の顔が真っ赤になったのが分かった。
顔が熱くて、頭にやかんを置いたら沸騰しちゃうかもしれない。
口から心臓が出そうなくらいにドキドキする。
一方、手塚先輩は何時もの無表情であたしを見ている。

「如何した?

顔が赤いぞ。」

手塚先輩が大きな手であたしの額に触れた。
ひんやりして気持ち良かったけど、あたしは余計にドキドキした。

『な、何でもないです!

大丈夫です!』

「そうか、ならいい。」

『あの、これ書いてきます!』

そそくさと手塚先輩の元から離れ、手塚先輩から一番遠くの椅子に座った。
このままあの人の近くにいると、頭がパンクしてしまう。
もしかしたらドキドキが聞こえてしまうかもしれない。

おでこ触られちゃった。
もう一生顔洗わない!

『……はっ。』

嗚呼、こんな事を考えている場合じゃない。
さっさとこれを書いてしまわなければ。
あたしは気持ちを切り替え、使い慣れたペンを持った。





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