遅過ぎる相談

私の親友は『長時間のフライトは怠い』と何時も文句を言う。
確かに10時間近くあるフライトは長い。
閉塞感のある飛行機の中に長時間座っているなんて、特に盲目の私には耐え難い時間になるに違いない。
今頃、愛は飛行機に揺られながらゲームでもしているのだろうか。
私はバイオリンを弾きながら、昨日の愛からの相談を思い返した。


好きな人が出来た。
その人は同じ学校の3年生。
男子テニス部の部長で、生徒会長。
愛が生徒会に入ったのも、入学式で一目惚れをしたその人が生徒会長だから。
遠くからその姿を見つめているだけで幸せ、だった筈なのに…

一通り話してくれた愛に、私はテーブルをぺしぺしと叩きながら怒った。
ショートケーキの載っていたお皿とフォークがカタカタと揺れる音がした。

「如何してもっと早く話してくれなかったの!」

『えへ、ごめん…。』

「私の事を気遣って、話せなかったのね?」

『仰る通りです…。』

愛の遠慮がちな声がする。
声だけで愛がどんな表情をしているのか、大体分かる。
私はショックだった。
親友の初恋を1ヶ月近くも知らなかったなんて。
こんなに悩んでいたなんて。

「全力で応援しなきゃね。」

『応援?

今、応援って言った?』

「言ったよ。」

『ど、如何いう事?』

「遠くから見つめるだけじゃなくてもいいでしょ。」

私の事はもう気遣わなくてもいいんだから、愛は恋愛だって何をしたって自由なの。
私はそう付け足した。
でも、愛はその意味がよく理解出来ていないようだった。

『ちょっと待って。

確かに華代に気を遣わなくていいのは分かった。

でも遠くから見つめる以外に何をするの?』

「その人と付き合いたくないの?」

『つ、付き合…っ?!』

如何やら愛は付き合う事を考えていなかったようだ。
私に気を遣っていたからその人に告白しなかった、という訳でもないらしい。
本当に見つめているだけでいいと思っているんだ。
愛はそわそわしながら言った。

『先輩は男子テニス部の部長で、しかも生徒会長で…。

あたしの気持ちなんて迷惑でしかないよ。

恋愛なんて必要ないと思ってる人だから。』

「絶対に?」

『絶対に。』

「如何してそう言い切れるの?」

愛は口籠もった。
好きという気持ちが迷惑、恋愛は不要。
それはその先輩に対する愛の勝手な固定観念だ。
愛の話を聞いていると、そんな事はないと思う。
寧ろ、その先輩はきっと愛を…。
この話は愛が帰国してからにしよう。
愛は繊細ですぐ考え過ぎるから、テニスの試合に影響しそうだ。
今日はとりあえず、愛の主張を聞いてあげよう。

『付き合うとか告白とか……全然考えられないの。』

「愛は自分が如何したいのか、ゆっくり考えたらいいよ。

まだ入学してから1ヶ月も経ってないでしょ?」

『うん、確かに。』

「明後日からのテニスの試合で色々と発散したらいいんじゃない?」

『あ、それいい考え!

先輩の事で頭が一杯で、テニスに集中出来なかったら如何しようかと思ってたの。

でも発散だと思えばいいんだ!』

愛の考えをいい方向に向ける事が出来たから、私は自然と微笑んだ。

『ありがとう、華代。

やっぱり華代に相談しなくちゃね!』

「これからは全部話してよ?」

『ぜーんぶ話す!』

でも、愛は私の目の事を誰にも話さない。
私はまだ元気に学校へ行こう、なんて思えない。
盲目になってしまった事を下手に知られたくないし、他人からの同情なんて要らない。
私が何も言わなくても、愛はそれを分かっている。
だから、私の事を誰にも言わないし、相談もしない。

ごめんね、ありがとう、愛。
もう少し私の気持ちが上向いたら、一緒に出掛けたいな。
愛の家にもまたお邪魔したいな。

私はまだ恋を知らない。
だけどもし、愛の好きな人が愛の傍で力になってくれたら。
とっても素敵な事だと思うんだ。
その時は私と出来なくなった事をその人と一緒に沢山楽しんで欲しい。
愛の幸せが、私の願い。



2016.11.24




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