燻る不快感

男子テニス部の1年部員がコートの準備をする中、俺は他のレギュラー陣が続々と到着するのを確認していた。
すると、昨日公園で打ち合ったばかりの不二の姿を発見した。
レギュラージャージを着て髪を高く結い上げている不二は、何故か体育館の方へと向かった。
何処へ行くのだろうか。
自分が不二を目で追っている事に遅くも気付くと、昨日の事が思い出される。
不二は俺を嫌っているのだろうか。
それを考える度に、経験した事のない様々な感情が胸を支配する。

「おはよう、手塚。」

「乾か、おはよう。」

「早速だが、今日の朝練は――」

マネージャー業務をこなす乾の説明を聞きながら、俺の視界の片隅に桃城が映った。
もうすぐ朝練が始まるというのに、何処かへ行くつもりらしい。

「――以上だ。

指示を頼むよ。」

「分かった。」

乾はデータノートを閉じ、再び部室へ向かった。
俺は桃城にグラウンドの刑を言い渡すべく、その後を追った。
しかし、桃城は中々見つからず、気付けば体育館まで来ていた。
不二が何処で何をしているのかが気になって此処まで来た訳ではない、と自分に言い聞かせる。
それに桃城はこの場所にはいないだろう。
テニスコートから体育館へ行くには、この道では遠回りだ。
桃城が遠回りをしてまで此処へ来るとは思えない。
引き返そうとした時、遠方から声が聞こえた。

「本気で感謝してるぜ。

愛ちゃんがいなかったら、もっと駄目になってたと思う。」

『そうでしょうか…。』

「当たり前だろ!」

不二と桃城の声だった。
あの凛とした声は不二で間違いない。
何故、このような場所で話しているのだろうか。
桃城は不二を追ったのを誰にも悟られないよう、敢えて遠回りを選んだというのだろうか。
姿を隠しながら近付いてまで聞き耳してしまう自分に苛立った。

「おっと、そろそろ行かねぇとな。」

『あ、そうですね。』

「じゃあな、愛ちゃん。」

『皆の前であたしの呼び方は不二妹ですよ!』

「はいよー、不二妹!」

『もう。』

俺は二人に見つからないよう、咄嗟に引き返した。
隠れて親密そうに話しているのを聞くと、胸に不快感が燻った。
不二が桃城に下の名前で呼ばれていた。
俺以外の男子と親密そうに話していた。
経験した事のない感情が俺の中に次々と増えていく。
この感情は一体何なのだろうか。

朝練に集中するにはかなりの時間を要した。
この日の授業中、不二の声が頭から離れなかった。



2016.11.13




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