二度目の異変

ドイツは午前10時、日本は午後6時。
2時間後に始まる決勝戦を控え、あたしはホテルのベッドに寝転びながら電話をしていた。
相手は華代だ。
今日は土曜日だから、華代の学校はお休みだ。

《大会が終わったら、ちゃんと隠してる事教えてよ?》

『うん、絶対に。』

《頑固なんだから。》

『ごめんごめん。』

少し前から華代には目眩と頭痛の相談をし始めたけど、当然ながら心配されている。
ただ、あの倒れ込む程の体調不良は話せなかった。
もし話せば、桃先輩を通して国光に伝えようとするだろう。
国光と華代には直接逢って話したい。
話せば病院行きは確実。
国光なら引っ張ってでも連れて行きそうだ。

《決勝戦、頑張ってね。》

『勿論!』

《優勝してね。

行ってらっしゃい。》

『ありがとう、行ってくる。』

親友からの電話を終え、スマホをベッドの枕元に置いた。
1週間も滞在していれば、時差ボケには慣れた。
今頃、国光は部活だろうな。
国外での試合は寂しい。
8時間という絶妙な時差や試合時間のせいで、国光となかなか電話が出来ずにいる。

『退屈だ!』

試合への緊張は皆無。
テレビを観ていたってドイツ語が分からない。
ベッドから立ち上がり、広い部屋の片隅に置いてあるトランクまで歩いた。
3DSで暇潰しをしよう。
歩いている時、それは再びやってきた。
大きな耳鳴りがして、地球がぐらぐら揺れているような感覚がした。

『っ…何…ま、た…。』

その場に転倒してしまい、危うく舌を噛みそうになった。
強烈な吐き気と、あの押さえ付けられるような頭痛がする。
ぐるぐると回る目眩が襲ってきて、嘔吐しそうになる。
またあの体調不良だ。
これは一体何なんだろう。
この身体は如何なっているんだろう。

お願い、決勝戦までに回復して…。

20分程動けずにいると、視界が明確になってきた。
ゆっくりと身体を起こした時、絨毯の床に涙がぽろぽろと落ちた。
あれ、泣いていたんだ…?
這い蹲ってベッドまで移動し、上半身だけベッドに上がった。
腕に顔を埋めたまま、不調が治まるのをひたすら待つ。

日本に帰国したら、ちゃんと話そう。
国光にも華代にも、勿論家族にも。
目眩が落ち着いてきた頃、ふとスマホの振動を感じ、枕元を手探りした。
手に取ったのはいいけど、視界が悪い。
ロック画面にメッセージが表示されていた。

―――――
今、話せるか?
―――――

部活終わりであろう国光からのメッセージ。
こんな状態でもいいから話したい。
震える手でスマホを操作し、メッセージを返す事なく電話をかけた。

《もしもし。》

『あ…国光。』

《如何した、声がおかしいぞ。》

『寝てた…の。』

《……。》

何か勘付かれただろうか。
国光が黙ってしまった。

『あのね…明後日の夕方に帰国するから、そしたら…っ…。』

《愛?》

吐き気がして、言葉が途切れた。
咳き込みそうになったけど、口元に手を当てて堪え切った。

《愛、ビデオ通話に出来るか?》

『…?!…駄目…!』

《何故だ。》

『…駄目なの。

でも…もう少ししたら…』

もう少ししたら体調も落ち着いて、顔を見て話せるかもしれない。
今まで国光はビデオ通話だなんて言い出した事もなかったのに。
涙が頬を伝うのが分かった。
声を聞けて良かった。

『……ありがと…おやすみ…。』

掠れた声で言うと、電話を切った。
そのまま電源を落とし、再びベッドにうつ伏せた。
暫くは微動だにしたくない。
決勝戦は早く終わらせなきゃ。
お兄ちゃんとコーチの前くらいでしか本気を出さないけど、今日はそうも言っていられない。
早く、早く終わらせなきゃ。



2017.1.26




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