兄の勘

日本とドイツの時差は8時間。
丁度部活の時間に愛の試合が被っていた。
テニスは注目の試合すらテレビで放送され難く、女子ジュニアもそうだ。
テニス界で不二愛の名を知らない人間はいないが、放送されないのは残念だ。
大会公式のHPで試合の動画を生放送で見る事が出来る。
しかし、都合が合わないのが現状だ。

「手塚。」

「!」

兄の不二がタオルで汗を拭いながら話しかけてきた。
コートでは乾がレギュラーの両足に重りをつけ、順にラリーをさせている。

「愛は最近何か隠しているよね。」

「知っていたのか。」

私語を慎んでテニスに集中するように言いたかったが、愛の話になるとそうも言えなくなる。
特にこのような話題はすぐにでも聞きたくなる。
愛の身近にいる不二なら、何か知っているかもしれない。

「重大な事を隠している気がするんだ。

何か聞いていないかな?」

「残念ながら、教えて貰えなかった。」

「そう…。」

「何故重大だと思うんだ?」

「兄の勘だよ。」

重大な事、とは何だろうか。
一つ気になるとすれば、疲労気味だという事だ。
しかし、愛は試合を順調に勝ち進めている。
既に2試合をストレートで突破し、残り3試合を勝てば大会初の3連覇となる。

「愛は隠し事が多いのか?」

「今日はよく喋るんだね。」

「…不二。」

「ごめんごめん、珍しいと思ってね。」

微笑む不二を無表情で見ても、不二は全く動じない。
因みに、愛は俺が無表情でも僅かな表情の変化を感じるらしい。
流石は俺の左肘を見抜いた洞察力だ。

「愛は怪我を隠して大会に出たりするんだよ。

去年は足首の捻挫を隠していたしね。」

実に愛らしい秘密だ。
兄の不二が気付かない程、隠すのが上手いのだろう。
しかし、余計に悪化すると元も子もない。
すると、重りに限界が来た桃城がコート内で力尽き、俺に順番が回ってきた。

「愛とは上手くいっているみたいだね。」

「……。」

どのように言い返せばいいのか分からず、黙ってしまった。
不二の微笑みは時折愛に似ている。
やはり兄妹だ。
俺は不二に背を向け、コート内へと向かった。
愛と話した内容を思い出す。

―――お前の兄は何かと鋭いな。

―――そうなんです、過保護で大予言者。

重大な事を隠していると思うのは、兄の勘。
不二が言うと、不気味に感じる。
何もなければいいのだが。
愛が何を隠しているのか、ラリー中も気になってしまった。



2017.1.26




page 1/1

[ backtop ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -