完成

此処はニューアイランド。
周りを海に囲まれて隠れるように存在する研究所の一室に、複数のガラス管が存在している。
その中の一つに、何本もの管を身体に取り付けられた赤子の姿があった。
赤子は膝を抱き、瞳を閉じていた。
その隣にもガラス管があり、人間ではない生物、つまりポケモンが培養液の中で眠っていた。
腕を胸の前で組み、赤子と同様に管を数本取り付けられている。
その姿からまだ幼い子供である事が窺える。
その二つの生命体は生きているのか疑問になる程、微動だにしない。

すると、赤子はゆっくりと瞳を開いた。
瞳に映った景色は培養液によって褐色に染まっている。
赤子には白衣を纏う男性がガラス管越しに自分を凝視してくる姿が見えた。
その男は目を見開き、口を開いた。

「もう目覚めたのか。」

静かな研究室にその小さな声はよく響いた。
周りにいた複数の研究員が赤子を見つめていた男性の元へと駆け寄った。

「フジ博士、もう目覚めたのですか?!」

「まだ早過ぎます、睡眠剤を投入しますか?」

研究員がフジ博士と呼ばれた男性に焦燥の色を隠せずに早口で話し掛ける。
フジ博士は茶髪に髭を生やし、眼鏡を掛けた中年の男性だった。
目の奥に潜む怪しい光は、何か恐ろしい事を目論んでいるように濁っていた。
研究員の台詞に対し、フジ博士は首を横に振った。
その瞬間、赤子の瞳がカッと開かれた。
それを見たフジ博士と研究員は思わず後退りした。
乾いた音を立て、赤ん坊のガラス管に亀裂が入り、そして…


―――バリーン!!


それは粉々に割れた。
同時に赤子の身体に取り付けられていた管は千切れ、培養液によって浮遊していた身体は重力に従って落下した。
培養液は外へ流れ出し、赤子は僅かに残るガラス管のガラスの中でじっと横たわっていた。
その場に居合わせた研究者たちは、まさかという表情で赤子へと熱い視線を送った。

「完成した?」

「予定より早過ぎるぞ。」

「こいつがやったのか?」

「隣のミュウツーのガラス管は無事か?!」

騒然とする研究者たちを背景に、フジ博士は研究室に備えてあったタオルを手に取り、赤子へ近寄った。
そしてそれを赤子に優しく巻き付け、抱き上げた。
産声も上げない赤子は抱き上げてきた張本人を不思議そうに見つめた。
その瞳は美しい紫色をしており、途轍もない力を秘めているとフジ博士は直感した。
そして、再び口を開いた。

「今日からお前の名前は

小夜だ。」

小夜と名付けられた赤子は、真っ直ぐにフジ博士を見つめていた。
紫水晶のような瞳で。




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