\ 02 /
他の色の浸入を許さない鮮明な青を、朝のさわやかな空気はいつもより近く感じさせる。どこまで続いているのか見当も付かない遥か向こうの白けた空を背に立つなまえを見つけ、俺は軽く手を上げて駆け寄った。
「おはよう。待ったか?」
「ううん、私が早く着いちゃっただけだから。」
続けておはようと言って頭を小さく下げると、なまえは白けた空の裾に透けるような透明さで微笑む。どきりとするよりも心が穏やかになるなまえの笑顔を横顔で眺めながら、俺たちは通学路を歩き始めた。
「たった五分早く出るだけでこんなに人を見かけなくなるなんて知らなかったな」
「俺なんかは朝練でいつも誰もいない時間に出るから変わらないな…」
そこまで言って、俺はふと気付いて人差し指を立てた。
「今朝はなまえと一緒だからいつもよりゆっくり歩いてる。」
「わ、私歩くの遅い?合わせさせちゃってる?」
慌てて足を速めようとしたなまえの手首を掴まえて立ち止まらせると、振り向いた困り顔に向けて首を横に振る。
そういう意味じゃなく、ただ単に俺が、
「少しでも長くなまえと居たいからだ。」
そう言うとなまえは一瞬ぽかんと口を開けて、すぐにはっとして喉元から額まで真っ赤に染め上げた。茹で蛸状態のなまえは言葉にならない声をでたらめに上げると、燃え尽きた様子で俯く。今にもぷしゅーっと空気が抜けていってしまいそうだった。
俺はそんななまえの指先を弱く摘まんで、彼女の半歩前を歩き出す。後から着いてきたなまえは顔を俯かせながらも、小さな声で幸せは歩いてこないの歌を口ずさみ、たまに俺の手を引いてちびちびと二歩下がったりしていた。
これは遅刻ぎりぎりになりそうだな。俺は自然と口が緩むのを抑えきれずに、静かに息を洩らして笑った。
3−2=ゆるやかな通学路
100421/めぐり