02






夕陽に照らされた町並みがほんのり赤い。俺たちを乗せた観覧車は、のんびりとした速度で頂上へと上っていく。
視線を動かすと、なまえが眼下に広がる景色をきらきらとした目で見つめていた。よっぽど楽しいらしく、口が開いている。そんななまえに、心臓が何度も大きく打った。

「…少しはこっち向けよ」

妙な緊張感と不快感で、俺は無意識にいつもより低い声を出していた。

「ふふふー、妬いてるの?」

そう言って笑いながら、なまえは外から視線を逸らさない。まるで車から頭を出す犬のように、窓ガラスにかじりついている。

「ちげーよ」

俺が先程よりも低い声で言うと、なまえはただ短く、そう、とだけ呟いた。






夕陽があまりにも眩しくて目を細める。もうすぐ頂上で、恋人同士で乗るには定番のイベントがあるのに、なまえは景色に夢中で、最早俺に背を向けていて表情も伺えない。恋人と乗っているという感覚は無いのだろうか。
俺は自分でも、なまえとは上手く行っていて、少なくともお互いがお互いを好きだと思っていた。まさか、好きなのは俺だけなのか。






赤い夕陽が強く光っている。もうすぐで頂上だと思ったそのとき、不意になまえが振り向いた。俺はそれに驚いて、多分あからさまな反応をしたと思う。
久しぶりに見た彼女の顔が心なしか赤いのは夕陽のせいだろうか。そんなことをぼんやり思っていたら、なまえが口を開いた。

「普通の代名詞とも言えよう真一くんに、」
「…何だよ」

俺がそう言うと同時に、なまえの顔が一気に近づいてきた。恥ずかしそうな表情で、じっと俺を見つめたかと思ったら、なまえの唇が、遠慮がちに俺の唇に触れた。

「私からベタなプレゼントです」

そう言いながら、はにかみ笑いを浮かべてなまえが離れていく。固まる思考の中で、なまえも俺のことが好きだと思って良いらしい、ということだけが唯一理解出来た。






なまえはまた俺に背を向けて景色を見ている。俺を置いてきぼりにして、既に観覧車は頂上を過ぎていた。


不意打ちかよ


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