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何かを見せびらかす時に使うには、あまりもありきたりな効果音を出して、なまえが弁当を開いた。
「ジャーンって何だ、もっとひねれよ」
「ふふふー」
楽しげに笑うなまえから、弁当に目を移す。すごく美味しそうな弁当だと思った。(口には出さない。)
一段目の白いご飯にはピンクのハート。(ベタだな。)他にも、タコさんウィンナーに卵焼きなど、定番のおかずが綺麗に詰められている。(きっと卵焼きは甘いんだろ。)
箸でウィンナーを挟んだなまえが、にこにこしながらそれを俺に差し出してきた。(この流れはきっと、)
「はい、真一、あーん」
(やっぱり。)きっちり八本の足が揃ったタコの向こうに、なまえの嬉しそうな顔が見える。口元でまるで宇宙人か何かのように浮いているウィンナーから良い匂いがした。(ちげ、タコだ。)
俺はぎこちなく、いただきます、と伝えて、口を開いた。
「……ふふふー」
だが、ウィンナーは俺の口に入らず、代わりに心底楽しそうな笑い声が耳に入ってきた。俺の口元まで来ていたウィンナーが離れていく。(ああ、なるほどな。)それを目で追うと、思った通り、ウィンナーはなまえの口に放り込まれた。俺は小さく溜め息を吐く。つまり、相手の口元まで食べ物を持っていき、期待させたところで引き返して自分が食べるという嫌がらせだ。(またベタなことを。)
なまえの喉が上下する。どうやらウィンナーを食べ終えたようで、満足そうな表情で俺を見て笑った。
「ベタ過ぎるんだよ」
俺がそう言うと、なまえは何食わぬ顔で卵焼きを口に運ぶ。(俺に食わせろ。)そのままなまえは顔をずい、と俺に寄せ、不意に唇を重ねた。突然のことに目を見開いて驚いていると、ふふふーと笑いながらなまえが離れていく。
「真一の彼女だからねー」
そう言うなまえは先程よりももっと嬉しそうな顔で、俺は唇に残った甘味に、ただ頬を赤くするだけだった。
(……やべ)
唯一のイレギュラー
「ふふふー、ごちそうさまー」
「早っ!お、おお俺のは」
「真一、耳まで真っ赤」
「!」