「吹雪くん、また雪が降ったよ」

私が電話越しにそう言って、ふわりと舞い上がる白い吐息を目で追っていると、向こうからは水が跳ねるような音とくすりという小さな吐息の音が届いた。

『北海道では毎日降ってるよ』
「寒い?」
『もう慣れたかな』

彼の姿が私に見えることは決して無いのだけれど、眉を下げて笑う彼がありありと目に浮かんだ。私がそっかあ、と言って一人頷くと足元でべちゃべちゃになって黒ずんだ雪が見える。つま先でつつくとそれはべちゃりと潰れて水になった。

『…もしかして外にいるの?』
「んー?まあ、うん」

心配そうな声色が電話越しに聞こえる。まるで彼がすぐ隣にいるように、電話を当てる耳と手が温かい。

『中で電話しなよ。寒いでしょ』

少しだけ咎めるような口調で彼は私を玄関の前まで追い立てる。電話を持つ手はそのままに、もう片手はポケットに突っ込み玄関に寄り掛かって、しとしとと降る雪だか雨だか分からないものを眺めた。明日には完全に液体と化すだろう。
もし積もれば、私はその白を踏み締めて彼のところまで歩いていけるのに。

「積もりそうもないよ」
『もうすぐ春だからね』
「…会いたいなあ」
『僕も会いたいな』
「いつ会える?」
「すぐ会えるよ。ね」

すぐ横からべちゃりと水が跳ねるような音が聞こえた。





100311/めぐり
雪が降りました。寒い


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