外気に触れ白く染まる息をそっと吐いて、両の手のひらを擦り合わせる。頻りに鼻をすすっては、隣の士郎くんを横目で伺って口元を緩ませた。
人で溢れ返り、深夜とは到底思えない景色の中、二人で並んで歩く。マフラーに口を埋めて縮こまる士郎くん。歩きに合わせて揺れる彼の手を掴もうか掴むまいか。人混みに流されてしまいそうだから、なんていうのはただの建前で、私が手を繋ぎたいだけだったりする。

「人、多くなってきたね。」
「そうだね。」
「なまえちゃん、手、繋ぎたいな。」

心の声とか、駄々漏れだったのかもしれない。そんな心配をしてしまうほどに士郎くんは、そつなく見事に私の望みを叶えてくれる。
差し出された士郎くんの手を、にやけないように顔に力を入れてぎゅっと握った。繋いだ士郎くんの手も私と同じで冷たかったけど、合わさった手のひらから、どんどん熱が広がっていく。士郎くんが嬉しそうに目を細めて温かいね、と言った。
すぐ近くから鈴の鈍い音色が聞こえる。軽く手を合わせると、前の人たちはすぐにお賽銭箱の前から退いて、私たちのお参りの番になった。階段を登って、二人でお賽銭を投げ入れたはいいけれど、手を繋いでいるからお願い事が出来ない。

「離したくないなぁ。」

あははと笑いながら困ったような目で私を見る士郎くんに、私も同じように笑って返す。
なかなか離せない手に、私がどうにか出来ないものかと思案していると、不意に士郎くんが私の手を振り払った。驚いて隣を見ると、そこには橙色の瞳を不機嫌そうに細める敦也くんが。どうして入れ替わったのだろう。

「こんなもんさっさと済まして帰るぜ。俺は寒いんだよ。」

そう言いながら手を合わせて目を伏せる敦也くんを横目で盗み見て、私も黙って手を合わせる。もう少しだけ、手を繋いでいたかったのだけれど、仕方ないかな。
お願い事を心の中で何度か唱えて、薄く目を開く。眼球だけを動かして隣を見ると、意外なことに、敦也くんはまだ目を閉じたまま難しそうな顔で手を合わせていた。

「……チッ、うるせえよ兄貴…」
「…何をお願いしてるの?」
「おわっ!な、驚かすな!」

時折舌を鳴らしながらぼそぼそと呟く敦也くんの顔を下から覗き込むと、敦也くんは心底驚いた風で、私から一歩後ずさる。何もそんなに驚かなくても、と私が苦笑いを浮かべていると、敦也くんが強引に私の手を掴んだ。声を上げる間も無く、歩き出した敦也くんに腕を引っ張られて足がもつれる。そのまま人混みを掻き分けてぐんぐん進んでいく敦也くんの手は温かくて、離していた間のことを忘れてしまうほどだ。

「敦也くん手あったかー」
「お前の手がつめてえんだよ。少ししか離してなかったってのに。」
「あはは」

気の抜けた笑いを溢すと、敦也くんが私の手を強く握り締める。

「俺が温めてやるよ」
「わお、大胆」
「…もう敦也代わってよおー…あ、」

一定の速さで揺れていた後ろ髪があまりにも突然止まったものだから、思い切り顔から追突してしまった。と同時に、敦也くんから士郎くんに戻ったらしいということが分かる。
敦也ずるいよ、自分だけ格好つけて、とか士郎くんが悔しげに呟いている。私が士郎くんの手を強く握り締めると、士郎くんがきょとんとした顔で私を見る。

「帰ろっか」

私がそう言うと、士郎くんは可愛らしい笑顔でこくりと頷いた。
温め合うように冷えた手を繋いで帰ろう、暖かい炬燵が待つ家に、三人で。


新年、
君たちと手を繋ぐ



「帰って特番見よう、なまえちゃん。」
「おこた入って、ね。」
「俺は録画したガキ使が見てえ。」
「じゃんけんだよ。」





100101/めぐり
あけましておめでとうございます!


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