グラウンドで駆け回るサッカー部をぼんやりと眺めていたら、階段に座り込む私を見つけた吹雪君がにこやかに駆け寄ってきた。今日も彼の笑顔には癒される。

「練習はいいの?」
「うん、一休みさぁ。」

汗ひとつかかずに、何を言ってるのやら。
しかし、白い肌は微かに赤みを帯びていて、しっかり運動したことが伺える。やはり、彼の体力は並じゃないのだろう。帰宅部の私が、サッカー部の現役エースストライカーに言うのも何だけど。
吹雪君の横顔を見つめていた私の視線が、空へと投げられる。
薄い青色の空をゆったりと流れる白い雲。ボールが弾む音が遠くから聞こえる。
視線を戻し、隣に腰掛ける吹雪君の白いソックスが、土にまみれて汚れているのを横目で眺める。

「吹雪君はさ、オムライスとか好き?」

自分でも突然だと思うような質問に、グラウンドを見ていた吹雪君がこちらを向く。うーんと、少し考えてから、彼は首を傾げるようにして微笑んだ。

「好きかな。」

その言葉と仕草に、何となく顔が熱くなる。

「じゃあ今度私が作ってあげよう!」
「みょうじさんが?」

赤くなった顔をあまり見られたくなくて、胸の前で拳を握って勢いよく立ち上がる。
ぽかんと私を見上げる吹雪君は、抱えていた足を静かに放して、数回瞬きをした。今にもぱちくりと効果音が付きそうだ。
そんな彼が思っているであろう失礼なことを、ずばり言い当てると、困ったように笑う。

「何か書いてほしいこととかある?」
「…?オムライスに?」
「うん。ケチャップで。」

毎回オムライスを食べる楽しみのひとつになっている。ケチャップで、何を書こうか。
赤と黄色の鮮やかなコントラストに、何だかわくわくしてしまう。子供染みているが、上手く書けたら書けたで、普通のものよりも、美味しく感じるのだ。
さぞ楽しそうな顔をしているだろう私を見て、吹雪君は人差し指をあごに当てて空を見上げた。

「うーん…、がんばって、とか?」

唸りながらも、的を射た言葉を言う彼に、うんうんと頷く。

「ハートとか?」
「うんう…、はっ…はあと?」
「だいすき、とか?」
「ふ、吹雪君?」

にこにこしながら、次々と案を出す吹雪君。だが、その方向性が、少しずつ、いや、かなり大胆にずれていくのを、見逃すわけにはいかなかった。
胸の前で握り締められていた拳も、徐々に開かれて下がっていく。
私を笑顔で見つめながら言う吹雪君に、何か悪いものでも食べたのかと、段々心配になってくる。
しかし、彼の笑顔が寂しげに歪んだのを見ると、私の心配は別の意味になった。

「だめ、かな…?」

そう言って、彼が寂しそうに俯いた瞬間、さわさわと吹いていた風が突然止んだ。
開かれた手のひらも、力を取り戻して拳になる。

「…っ!いいよ!何でも書くよ!」

表情が曇ってきた吹雪君に、半ば叫ぶようにして言うと、膝を見つめていた彼の視線がぱっと上がる。
演説のように、拳を上下に振る私を見た吹雪君は、たちまちいつもの笑顔を浮かべた。

「あはは、楽しみだなぁ。」

グラウンドから吹雪君を呼ぶ声がする中、立ち上がりながら彼は言った。
空に突き上がった色素の薄い吹雪君の手。それに応えるように、グラウンドでも手が上がっている。
じゃあ僕、練習に戻るね。そう言ってグラウンドへ駆けていく吹雪君を、私は見送った。

白い頭が、グラウンドを駆け回っている。
私はまた、ぼんやりとその光景を眺める。
さっきと違うのは、階段で足を抱えて座り込む私が、度々、応えるように手を空に突き上げることだろうか。


には
黄色には

(帰り、たまご買わなくちゃ。)


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