二人分の悲鳴が曇り空に響いた。ねずみ色をした雲が、果てまで空を覆って陽光を阻んでいる。
「大丈夫?」
「う…、ごめん…」
決まり悪そうに眉をしかめるなまえちゃんが、ふと顔を真っ赤に染める。それもそうだ。ぴたりと重り合った身体、近い顔、僕の心臓も心なしか早い。転びそうになったなまえちゃんを受け止めて、二人一緒に倒れたらこうなった。当然で、ありがちな展開だと思う。しかし背中に当たる屋上のコンクリートが冷たい。
彼女の髪が風に揺られて、ふわりと甘い香りがした。
「ごめんね、重いよね」
そう言って起き上がろうとするなまえちゃんの背中に腕を回して、半ば押さえ付けるように抱き締めた。わ、と声を上げて肩を強張らせるなまえちゃん。誰が放すか、と思った。
僕の顔の横に彼女の頭があって、流れ落ちる髪の間に真っ赤な耳が見える。
「ふふふ吹雪くん」
「ん?」
「ん、じゃないよ吹雪くん!」
なまえちゃんが、何故か声を潜めて言う。焦っているのか、回らない呂律が可愛いな、なんて思った。
かちこちに強張った彼女の身体は、女の子特有の柔らかさで、思わず背中に回した腕の力を弱める。あまり強く抱き締めたら、儚く壊れてしまいそうだ。
「放してよー…」
「あはは、駄目かなぁ」
僕が笑いながらそう言うと、なまえちゃんは赤い顔を此方に向けて恨めしそうに、なんで、と言った。まさに目と鼻の先の彼女に一瞬どき、として、しかしすぐ平静に戻っていつも通り微笑む。
「今なまえちゃんを放したら、僕は多分後悔するだろうから。」
そう言うとなまえちゃんは、更に顔を真っ赤にして僕から背ける。消沈したように固まる彼女の身体が温かくて、屋外の寒さなど気にならない。
周りには誰も居ないのに、僕は、誰にも気付かれないようにこっそりなまえちゃんの首筋に唇を当てた。勿論彼女はそれに気付いて、肩を跳ねさせたあと、ばたばたと足をばたつかせる。
今日が曇り空で良かった。こんなにも下心が丸見えで、お日様に後ろめたくなるから。
何より僕と彼女の二人以外に、このことを知るものなんて、例えお日様でも居なくていい。
こんな可愛い彼女は、僕だけで独り占めをする。
太陽は見えない
(昼休み終わっちゃうよ…)
(構わないさ)
2700:桃さんへ