同級生の亜風炉くんは、同い年とは思えないほど大人びている。しかも綺麗だ。白い素肌、長い睫毛に囲まれた赤い瞳、さらさらと流れるような金髪。全てが私の憧れる乙女像。でも彼は男の子だ。勿体無いと思う。照美なんて、名前まで完璧に乙女なのに。
「亜風炉くん、近いかも」
「そうかい?」
そんな残念な性別の亜風炉くんで、今私の視界はいっぱいだ。
昼休みはいつも、屋上に続くこの階段で友達と昼食をとるのだけど、今日はその友達が休みだったり委員会だったりで居ない。仕方なく一人で、もそもそとお弁当を食べていた。この階段は、屋上が開放厳禁のため滅多に人が来ない。来ない筈だった。
卵焼きを口に運ぼうとした時、不意に聞こえた足音に、思わず身体を強張らせたところに亜風炉くんは現れた。
「なまえちゃん、隣いいかい」
彼はそう言いながら、しかし私の伸びた脚を跨ぎ、そこに膝をついた。全然隣じゃない。
そうして、今に至る。
「結構近いと思うなぁ…」
自然と小さくなる声を、喉を捻るようにして出した。未だに宙をさ迷う黄色い卵焼きが、箸と私たちに挟まれて居心地悪そうにしている。亜風炉くんの赤い瞳がまっすぐに私に向けられて、何とも恥ずかしい。視線を合わすことなど出来る訳もなく、早く食うか下ろすかしてくれとでも言いたげな卵焼きを、ひたすら見つめる。
「貰うね。」
目の前の彼からそう発せられると同時に、視界の中心であった卵焼きが消えた。
行方を追って思わず亜風炉くんを見ると、彼の喉がごくりと上下するのが見えた。首が細い。
亜風炉くんは口角を微かに上げて、目を細めた。まさに微笑、美しいと書いて美笑でも全く問題ないと思う。
亜風炉くんはその笑顔のまま静かに瞼を落とす。不思議に思って見ていると、不意に唇に柔らかい体温を感じた。
呆気に取られて、というか何が起きたのか理解出来なくて固まっていると、その温度は一秒程で唇から離れた。まばたきを繰り返して、音も立てずに立ち上がる亜風炉くんを見上げる。
ぱち、という音がして、彼と目が合った。
「ごちそうさま。なまえちゃん」
その言葉と共に、にこりと笑みが降ってくる。亜風炉くんは肩に掛かった髪の束を背中に流して、階段を下りていった。
砂糖の甘みが仄かに残る唇が熱い。
乙女なんかじゃない
(お粗末様でした…、?)
2400:ララさんへ