どんよりとした夜空が、息も出来そうにないくらい重く感じる。
星のない空の手前で僕を見下ろす彼女は、恥ずかしさからか、僕とは視線を合わせずに居た。それと大きく矛盾して、彼女の身体は、仰向けに寝転がる僕に跨ぐようにして覆いかぶさっている。端から見れば、僕がなまえちゃんに襲われているように見えるだろう。だが現実、目の前には恥じらいの表情を浮かべるなまえちゃん。襲う側としては、ここは恍惚の表情が正解だと思う。
「どうしたの、なまえちゃん。」
僕が声を掛けて、彼女はやっと僕を見た。瞳が大きく揺らいでいる。
「あ、えっと……、吹雪くんはこういうことされるの好きかな…?」
そう言いながら、なまえちゃんは僕から再び視線を外した。
潤んだ瞳で、困ったような声色で、そんなことを言うなんて。彼女は僕をどうしたいのだろうか。
僕の上で四つん這いになるなまえちゃんの身体を支える四肢が震えている。寒さからか、はたまた緊張からか。どちらにせよ、このままだと彼女は冷たい風と緊張の波の両方で崩れ去ってしまいそうだ。
幸い、両手は拘束されていないので、その手をなまえちゃんの無防備な腰に添える。びくんと大きく跳ねた彼女に、妙な高揚感が僕を包んだ。
「なまえちゃんにされるのは、好きかな。」
「ふ、吹雪くん…」
僕のその答えが、なまえちゃんの望んだ答えだったようで、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
反則。彼女の笑顔はまさに不意打ちで、僕の理性とやらを繋ぎ止めていた何かが綺麗に取り払われてしまった。
彼女の腰をぐっと引き寄せて、怠惰に寝そべっていた身体を勢いよく起こす。小さく驚きの声を洩らす彼女を、先ほどまで自分が寝ていたところに静かに倒した。
これが本来あるべき形。僕が、彼女を襲っているように見えるこの形こそが。
「でも僕、どちらかと言えばこっちの方が好きだな。」
温まっていた背中が冷気に当てられて寒いけど、悪くない。
驚きのあまり動きも、表情すらも固めてただ僕を見上げるだけのなまえちゃんの額に唇を落とす。
「わ、吹雪くん…!」
暗闇の中では見えないけど、きっと彼女の顔は赤くなっているだろう。証拠に、なまえちゃんの頬に触れた手が熱い。
いや、この熱はなまえちゃんのものだけではないかもしれない。
上下逆転
(…僕まで熱い)
2100:おまおまさんへ