冷たい風に身を寄せ合うように集まる橙色の花たちが、甘い香りを放っている。毎年この季節に感じられる、この甘い香りが私は好きだ。
隣を歩く半田くんの横顔を眺めていたら、彼が大きな欠伸をしたものだから、つられて私からも小さな欠伸が出た。
さっき、登校中にばったり会った半田くんは、眠たそうに目をこすりながら私の横に並んだ。約束をしていたということもなく、何となく一緒に登校している。
何となく、成り行きで、だとしても私は嬉しい。
冬に近付きつつある証の冷たい風が頬を刺す。それは半田くんも同じだったようで、寒い寒い、と洩らしながら身を縮めた。
「ん、なんか良い匂いする。」
「ああ、金木犀でしょ?」
深緑に紛れる橙色の花を指さして言うと、半田くんは首を振った。
「違う違う、みょうじからか?」
そう言って寄せられた半田くんの顔があまりに近くて、心臓がどくんと跳ねた。
さっきまで冷たかった指先が熱るくらい、私の体温が上がるのもお構い無しに、髪の毛、首筋と鼻をくっつけていく半田くん。
正直、身が持たない。さわさわと微妙な間隔で動く半田くんが、くすぐったい。
「は、半田くん…」
震える喉から掠れた声を出せば、半田くんが一瞬動きを止める。その次に、勢いよく私から身体を離した。
「あ、ご、ごめん、俺何やってんだ…」
そう言う半田くんの顔がみるみる内に赤くなって、それを隠すように私に背中を向ける。
「え、いや、全然、良いんだけど…」
上擦った声でそれだけ伝えて、首を曲げて俯いた。
本当は、もう少しあのままでも良かったかもしれない。なんてことを考えて、すぐに頭を振った。
金木犀の香りが、お互いに目を合わせられない私たちを包むように流れていく。
学校のチャイムが遠くで響くまで、私と半田くんはそこで立ち止まったままだった。
君の匂い
(…すげー良い匂いした)