マフラー、取ろうかな。
そんな事を考えて、すぐに頭をふるふると振った。でも、そんなことを考えてしまうくらい、この島は暑くて、自分が居たあの寒い土地がどうしようもなく恋しくなった。最後に白い大地を駆けたのはいつだったろうか。
襟を緩めて、マフラーで首元をはたはたと扇ぐ。真っ赤に照った太陽がむき出しの肌を焼いていくような感覚に囚われた。今まで日の光に焼かれたことなどあまり無い自分の肌は、きっと酷く困惑しているだろう。僕と同じで、弱く脆い肌が、晒されて、破壊されていく。
「吹雪くん!」
大きな声と共に、ぴたりと何か冷たいものに当てられた頬が、あまりの温度差に飛び跳ねた。
「う、わぁっ。」
「うわぁだって。可愛いなぁ。」
振り向くと、にやにやと失礼な笑みを浮かべるみょうじさんと目が合った。この人はいつもこうだ。僕をからかって、にやにやと厭らしく、楽しそうに笑ってみせる。
「いやぁ、暑いね!沖縄!」
白い歯を出して快活に笑う彼女の手には、ペットボトルが握られていた。さっき頬に当てられたものは、これか。
「暑いねぇ。」
適当に返して微笑んでみる。
「はいどうぞ、飲んでみて。」
そう言って、ずい、と差し出されたペットボトルには、得体の知れないオレンジ色の液体が入っている。おそらく飲んでも平気な物だと思う。ただ、少し、彼女の「飲んでみて」の「みて」が気になるだけだ。試しに、というような意味なのだろうけど。
にこりと笑ってそれを受け取り、横から送られてくる期待の眼差しに応えるべく、甘い匂いのする液体に口を付けた。
「どう?」
「うん、おいしいよ。」
「ほんと?ちょっと失礼。」
横から伸びてくる彼女の手に、ペットボトルをすんなりと奪われる。かと思えばみょうじさんは流れるような動作で、それに口を付けた。
間接キス。そんな些細なことで熱くなる頬に戸惑う。ゆらゆらと風を送ってくれるマフラーを持つ腕の力を強めた。
僕の横で、おいしい、と言って嬉しそうに笑うみょうじさんが、ふと何かに気付いたかのように声を洩らした。
「あ。」
それは暑いから
(吹雪くん、顔赤いよ)