★君色の光2 | ナノ 「ツナ!?」
「! えっ、千紘…!?」


大人の姿の雲雀に連れられて、地下施設を歩いていく。
自分からすれば十年後の未来の世界だと言われてもあまりピンとは来ないが、目に入る設備や機械などは確かに未来的だ。
スイッチ一つで景色が変わったり、何もないように見えたところに扉が出現したりなど未知の現象にいちいち驚いてしまう。
手慣れた様子で次々と操作していく雲雀はそんな千紘の反応を楽しげに眺めている。
状況の理解に多少の時間を要したが、少し眠って落ち着いた千紘は自分の知る中学生の「雲雀恭弥」と目の前の大人の「雲雀恭弥」が同一人物だと飲み込んだようだ。
歩みを進めるうちに未知の仕掛けにすっかり怯んだ千紘はスーツに着替えた雲雀にずっと身体を寄せている。
雲雀が足を止めると何が起きるのか不安になるらしく、すぐにぴたりと肩を触れさせてくる。袖を握ったり腕を掴んだりという分かり易い接触は無いが、一部でもこちらに触れていることで少なからず安心するらしい。
仕掛けが作動し終わると接触していた部分は離れるがすぐに寄り添える程度の距離を保っている。
千紘本人は無意識であろうこの行動を眺める雲雀は気分が良い。まるで雛鳥がついて歩いているかのようだ。
そうしてようやくボンゴレアジトに辿り着き視界に沢田を見留めた千紘は、ぱっと駆け寄っていく。声を掛けられた沢田が振り返り、千紘を見て驚いた表情をする。


「ツナ! 良かった無事だったんだな」
「エッ! あ、うん! ええと、ほんとに千紘…?」
「? うん。……あれ? そういえばツナ、何で中学生なの? 未来なんだよねここ」
「えっと、オレも千紘と一緒で未来に飛ばされてるんだよね…」
「あ! それでツナいなくなってたのか…!」


数日前からリボーンや沢田たちが忽然と姿を消しており、おそらくまたボンゴレ関連だろうと心配していた。
今回は幸い雲雀は変わらず側にいてくれた為リング戦の時ほど不安にはならずに済んだが、それでも安否は気になっていたので元気そうな姿に安心する。
ふわりと破顔する千紘に沢田は落ち着きなくそわそわとしながら言葉を返す。
もちろん沢田とて、緊迫した未来の状況に緊張を余儀なくされながらも過去にいる友人たちの心配もしていた。
殺伐とした未来を目の当たりにさせることへの不安もあるが、何も言えずに姿を消してしまったことも気掛かりだったためこうして千紘に会えたことへのうれしい気持ちはある。
ただ、沢田を狼狽えさせている原因はこれではない。目の前で安心したように微笑む千紘にじわりと顔が熱くなる。
いつもの千紘なのに直視できない。


「…ツナ? 体調悪い?」
「エッッ!??」
「なんかちょっとしんどそうというか…」
「い、イヤ大丈夫!! なんでもないから!!!」
「わっ、そ、そう? ならいいんだけど」


視線を合わせようとしない沢田を気遣うように覗き込めば、飛び上がる勢いでギョッとした沢田がぶんぶんと首と手を振る。
明らかに大丈夫では無さそうな反応にますます心配になるが、あまりしつこく聞き出すのもどうかと一旦身を引く。
ちら、とこちらを見た沢田は目が合うとまた逸らしてしまう。一体どうしたんだ。
なんとも言えない沈黙が落ち、困った千紘は後ろに控える雲雀を振り返る。
視線の先で黒い美しい男は楽しげな笑みを返すのみ。口を挟むつもりはないようだ。となるとやはり沢田に解答を求めるしかない。
でもどう切り出すべきかと悩んでいると、依然顔は赤いままの沢田がようやく視線を合わせてくれた。


「ご、ごめん千紘、さすがに感じ悪かったよね」
「いや、そんなことは……ちょっと気になるけど」
「そうだよねゴメン……中学生の千紘がどうってことじゃないから!」
「…………うん?」
「オレが勝手に中学生の千紘に重ねちゃっただけだから気にしないで!」
「いや…え? 重ねるってなに……?」
「えっ!? あっ! しまった! イヤ何でもない!!!」
「何でもあるでしょさすがに! なに? 気になるよツナ」


申し訳なさそうに眉を下げる沢田の言葉に耳を傾けるがどうにも釈然としない。
自分に何かを重ねたために挙動がおかしくなったと言われれば当然何を重ねたのか気になってしまう。
困らせてしまうかもと我慢していた千紘だが、ついに沢田に質問をぶつける。
それにぎく、と全身を強張らせた沢田がさらに顔を赤くする。これで気にするなという方が無理な話だ。
もう一度問いかけようと沢田に近付こうとした千紘は背後から伸ばされた長い腕に捕まる。
スーツを纏うその腕が胴体に回り、ぐっと引き寄せられて頭上から落ち着いた声が落ちてくる。


「時間切れだ」
「わ...っ!? な、なに雲雀」
「まだ君を連れて行くところがあるからね。行くよ」
「えっ、待ってよ、ツナが変な反応した理由まだ聞けてない」
「今は無理だろうね」
「え?」
「見てごらん」


声の主はいつの間に距離を詰めたのか、静観していたはずの雲雀。
大した力が込められているわけでもないのに身動きが取れない。
沢田との会話が終わっていない、と抜け出そうとする千紘を一瞥した雲雀はそのまま視線を流す。
誘導するその動きに倣って見れば、耳まで真っ赤になった沢田が言葉を失ってこちらを凝視していた。だからなぜそんな反応になるんだ。
ギョッとした千紘が声を掛けるより早く、雲雀が沢田に言葉を投げる。


「安心するといい。この千紘はまだ君の知る千紘だよ」
「……!」
「? なに? それどういう意味?」


すっと切れ長の瞳を細めた雲雀の発言に沢田がバツの悪そうな表情になる。
当事者でありながら全く話の読めない千紘は雲雀と沢田を交互に見やる。しかし両方とも応えてはくれない。
腕の中に捕えられていた千紘には踵を返して歩き出した雲雀に逆らう術は無く、すっきりしないままその場を離れるしかなかった。
何度聞いても沢田綱吉に聞くといいよ、としか返してくれない雲雀だが随分と機嫌は良さそうだ。
口を緩く持ち上げた雲雀の美しい横顔に見惚れつつ、今回は聞き出すのを諦めるしかなかった。



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2022.11.03 百
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