★君色の光2 | ナノ 「往生際が悪いよ千紘」
「…………」


ソファーに沈む千紘を見下ろし、記憶よりも丸みの消えた頬に触れる。
跨っている身体も中学生の頃よりは幾分厚みが増したように思うが、やはり薄い。
経緯は知らないが今よりも未来からやってきた千紘は成長しても柔らかな雰囲気は変わらない。むしろ大人になり表情が和やかになったことでさらに増しているかもしれない。
淡い色の瞳でこちらを見上げる千紘はつい先程まで平然としていたくせに、押し倒して距離を詰めた瞬間に匂い立つような色を滲ませた。
触れればさらに誘うように空気を緩ませるが戦慄く唇で頑なに拒絶を繰り返す。
逃れようとこちらの脚に伸ばされた手も、受け入れるように揺らぐ瞳も、すべてでこちらを容認しているくせに。


「……だめだってば。どいて恭弥」
「僕が納得のいく理由があるなら従うよ」
「……大体、いまの恭弥からしたら俺10歳近く上なんだよ。離れすぎてる」
「僕が年齢なんて気にすると思ってるの」
「恭弥が気にするというよりも、一般的にアウトでしかないんだって」
「君、昔から周りを気にしすぎだよ。どうでもいいことだ」
「良くないんだって! 俺のせいで恭弥が変な風に見られたらいやだしさ」
「構わない。それに君、ずっといるわけでもないんだろ」


千紘が小さく息を詰める。
真っ直ぐにこちらを見上げていた瞳が僅かに水気を増し、眉を少しだけ下げて千紘が笑う。


「…ほんと、昔から勘鋭いなぁ恭弥」
「君が鈍いだけだろ」
「ひっどいな〜」
「赤ん坊から聞いてた制限時間は超えてるようだけど」
「あー、うん。さすがに5分じゃ戻れないからね」
「じゃあいいよね」
「! 待っ、ん、」


何のために未来の千紘がこの時代にやってきたのかは知らないし、聞いても答えられないだろう。
しかし目的があるからわざわざ十年バズーカとかいう妙な代物の制約を破ってここに存在しているんだろう。元々この世界に繋がりを持たない千紘が固執するものなんて決まっている。
頬に添えていた手で顔を固定するとそのまま口を塞ぐ。唇が触れる直前にこちらがしようとしていることに気が付いたようだが遅い。
制止しようとした声を遮り、そのまま割り入ろうとするが寸でのところで唇が閉ざされる。そして渾身の力で顔を背けた千紘が熱を孕んだ瞳で睨んでくる。


「…こら! だめって言ってるじゃんか!」
「どうして?」
「だから……!」
「だって君、僕に会いにきたんでしょ」
「……え」
「違うの?」
「ち、がわないけど……ええ……勘が鋭いとかいうレベルじゃないな…」
「そうだね。簡単すぎる」
「も〜かわいいな! 自分で言っちゃうとこが恭弥だよな」


その目を見据えながら返せば、驚いたように見開かれたそれが愛おしそうに細められる。
当たり前だ。生まれた世界ではなくこちらの世界に残ることを選んだ千紘がこだわるものなど限られている。それに今この時代に沢田綱吉たちがいないこともこの千紘は知っているはずだ。
であれば考えるまでもない。
ただ、それはいいとして先程から気になることがある。


「それで? 君のそれは誰の仕業?」
「え? それってなに?」
「さっきから君、触れるたびに誘ってくるけど」
「…………はい?」
「まさか自覚ないのかい?」
「さ、さそう? 誘うって俺が…?」
「うん」


きょとんと不思議そうな表情を浮かべる千紘は見慣れたこの時代の彼にそっくりだ。
ぱちりと瞬きながら思案する千紘が顔を背けた所為で晒されている首筋に親指で触れる。
声こそ上げないもののひくりと身体を震わせた千紘はとろりと甘い表情を浮かべる。そしてその顔でだめだ、と説得力の無い言葉を口にする。
こちらの行動に対して口では制止しておきながらもいちいち先を期待するように仕草や表情、眼差しを送ってくる。


「そんな反応をするように仕込んだのは誰?」
「……え、いや……ま、待ってよ」
「少なくとも、僕の知ってる君とは違う反応だ」
「………………」


驚いたように目を見開いて瞬きを繰り返していた千紘は、急に視線から逃れるように自身の顔を片腕で覆う。
そしてもう片方の手でこちらの肩を強めに押し返しながら、離れて、とくぐもった声を上げた。
従ってやるつもりは当然なく、邪魔な腕をどかそうと手首を掴めば抵抗するように力が込められる。多少は腕力も上がったようだがやはり大したものではない。
難なく腕を動かせば初めてしっかりと顔を赤くした千紘が視線を落として唇を噛み締めていた。
よく見知った表情に自然と口端か持ち上がる。


「なんだい急に」
「…………な、なんでもない、離れて」
「...ふうん? 君、僕に隠し事できたことあったっけ」
「えっ、ぁ、ちょっと恭弥…!」
「君次第だよ千紘」


明らかになんでもないはずのない顏をしておきながら誤魔化そうとする千紘に目を細める。
捕らえた手首はそのままに逆の手で千紘の着ているシャツのボタンを外す。その動きにぎくりと身体を強ばらせた千紘は慌てて口を開く。もちろんしっかりと表情に甘さを滲ませている。


「だめだって言ってるでしょ!」
「僕も言ってるでしょ、そんな反応しておいて何がだめなんだい」
「う…だから、それは………」
「………………」
「うわ、こら! 手、動かすなってば…!」


じたばたと身を捩る千紘は観念したように、言うからだめ、と赤く潤ませた瞳で言う。
大人しく手を止めてやるとひとつ息を吐いた千紘はぼそぼそと答える。


「……恭弥に決まってるでしょ」
「それなら尚更問題ないだろ」
「だめ。……ちょっと、別の問題も生じたから余計にだめ」
「問題?」
「…これに関しては大人の恭弥が悪い……」


いや俺も悪いのかもしれない、と力無く呟く千紘に首を傾げる。どうやら彼の中で何か葛藤しているらしい。
ひとまずどのくらいここに留まるのか聞いてみると、しばらくはいるから今はこれで勘弁して、と千紘から口付けてきた。
珍しいそれに思わず動きを止めれば、至近距離にいる大人びた知った顔が柔らかく微笑む。
その眼差しや声音から千紘からの想いが伝わってくるし、この時代の千紘ではありえない行動に満足して身体を解放してやる。
落ち着きを取り戻した千紘はよろしくね、と笑った。



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2022.04.10 百
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